佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

アレクシア女史、埃及(エジプト)で木乃伊(ミイラ)と躍る

「あたくしを行かせたくないようね、フルーテ?」
 フルーテは上級使用人にふさわしい綿の白手袋をびしっとはめた両手をしばし見下ろしてから答えた。
「わたくしはミスター・タラボッティーとふたつの約束をいたしました。ひとつはあなたの身を守ることです。エジプトは危険な場所です」
「ふたつめは?」
 フルーテはかすかに首を振った。「あなたを止めることはできません、奥様。しかし、おそらくお父上は行かせたくないと思っておられるはずです」
 アレクシアは以前に読んだ父の日誌を思い出した。「あたくしはこれまで、お父様が認めなさそうなことをたくさんしてきたわ。結婚もそのひとつよ」
 フルーテは荷造りに戻った。「お父上はあなたが自由に生きることを望んでおられます。しかし、エジプトだけは別です」
「悪いけど、フルーテ、その時が来たの。あなたがお父様の人生の空白部分を話すつもりがなければ、エジプトの誰かにきくしかないわ」
                                          (本書P125より)


『アレクシア女史、埃及(エジプト)で木乃伊(ミイラ)と躍る』(ゲイル・キャリガー・著/ハヤカワ文庫FT)を読みました。

まずは出版社の紹介文を引きます。


人類と異界族が共存する19世紀英国。伯爵夫人アレクシアは、社交に、“陰の議会”に、特殊能力をもつ2歳の娘プルーデンスの子育てにと多忙な日々を送っていた。そこへ世界最高齢の吸血鬼マタカラ女王からエジプトへの招待が届く。かつて“神殺し病”で異界族が消えたその地で、一行は古代より続く恐るべき秘密にふれることに―歴史情緒とユーモアに、人狼殺害事件の謎を絡めた大人気冒険譚、惜しまれつつも堂々完結。


 

あぁ・・・ついに物語も完結した。アレクシア女史、実に魅力的な女性でした。およそ二〇〇年生きてきた人狼マコン卿を虜にするのも肯ける。ケンカするほど仲の良いふたりに、手に負えないほど可愛い娘。理想的な家族です。スチーム・パンクな雰囲気と人狼、吸血鬼、ゴーストと人が共に住むファンタジックな世界観、そしてアメリカの作家らしいユーモアに溢れた語り口に魅了されました。本を閉じるにあたり、訳者・川野靖子氏に心からお疲れさまと言いたい。おそらくこの小説の翻訳は困難を極めたのではなかろうか。特に頻出するアケルダマ卿の発言には悩まされたことだろう。(笑)

 

さて、今年の年越しは何を読んで過ごしましょうか。昨夜、息子が帰ってきました。今日は娘も帰ってくるはずです。家族ものにしましょうか。木下半太氏の『暴走家族は回り続ける』をチョイス。さてさて、どんな物語が展開されるのか。「笑い納め」と「初笑い」を期待していいかな?!