『プールサイド小景・静物』(庄野潤三・著/新潮文庫)を読みました。
まずは出版社の紹介文を引きます。
突然解雇されて子供とプールで遊ぶ夫とそれを見つめる妻――ささやかな幸福の脆さを描く芥川賞受賞作「プールサイド小景」等7編。
40年ぶりの再読。「家庭の危機というものは、台所の天窓にへばりついている守宮(やもり)のようなものだ」(舞踏) この言葉にイメージされる日常に潜む脆さ。幸福は斯くも脆く壊れやすい。表層は幸せに見えてたとしても内情はさにあらず。庄野氏が『舞踏』から『プールサイド小景』、さらに『静物』を著し、その後『夕べの雲』、さらに長き年月を経て『ピアノの音』に至るまでを見たとき、氏が幸福な家庭や平穏な日常を如何に大切に思い守ってこられたのかを想像する。幸福は手に入れたと安心した途端にするりと手のひらから滑り落ちてしまうものだ。戦争のない平和な世の中が人々の祈りにも似た想いと日々の闘いによってどうにか獲得できるものであるように、家庭の平和もまたひたむきな想いと誠実さがあってはじめてそこにあるものだろう。あたりまえであることの難しさを考えさせられた。