佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

2019年8月の読書メーター

8月の読書メーター
読んだ本の数:9
読んだページ数:2803
ナイス数:1388

 

 8月は柏井壽氏の新刊が二冊。河野裕氏の「階段島シリーズ」がいよいよ完結。島、旅、酒と好物に関するもの。庄野潤三もよかった。愉しい読書であった。


リーチ先生 (集英社文庫)リーチ先生 (集英社文庫)感想
沖亀之助とその子・高市は実在の人物では無く、著者が物語の中で作り上げた人物のようである。第三者たる亀之助の目を通じることによって、リーチと柳宗悦武者小路実篤白樺派の若者、のちに陶芸家として偉大な足跡を残す富本憲吉、濱田庄司河井寛次郎らとの交流を読者は目の当たりにするように知ることができる。しかし亀之助のリーチ崇拝ぶりが極端すぎて鼻白む場面もある。しかしそれも陶芸家として成功を収めた息子・高市がすでに九十歳になるリーチに会うためにリーチ・ポタリーを訪れるという美しいエピローグに救われている。
読了日:08月03日 著者:原田 マハ


鴨川食堂まんぷく (小学館文庫)鴨川食堂まんぷく (小学館文庫)感想
6話それぞれに味があるが、第5話「カツ弁」が特に味わい深い。昨今の「情熱こそすべて」とする恋愛礼賛主義にさりげなく異を唱え、人を思いやる心こそが至上であるとしたところがよい。「夫子の道は忠恕のみ」日本男児大和撫子はもう一度節度を取り戻さねばならぬと私も思う。余談であるが、食堂で供される酒にも注目したい。福井「紗利」、姫路「八重垣」、新潟「鶴齢」、京都「蒼空」と日本酒のセレクトが素晴らしい。日本酒だけではない。沖縄の泡盛「瑞泉」、マンズワインの「リュナリス」「ソラリス」と食にあわせて供される酒は本物だ。
読了日:08月07日 著者:柏井 壽


カール・エビス教授のあやかし京都見聞録 (小学館文庫)カール・エビス教授のあやかし京都見聞録 (小学館文庫)感想
京都には連綿とした人の営みによる歴史の屍が累々と積み重なっている。現代にあってもそこかしこに古さの残る京の街には、ちょっとしたきっかけで怪しい世界に足を踏み入れてしまいそうな危うさがある。現実世界と隣りあわせにもののけの住む異相世界があり、ふと何かの弾みに人が迷い込んでしまうような怖さがある。蘆屋道満安倍晴明陰陽師伝説(葛の葉)、横笛伝説、おかめ伝説、小野小町を慕った深草少将の悲恋伝説、現代を歩きながらその昔に思いをはせる愉しみは京都ならではのものだろう。そこかしこにちりばめられたグルメ情報も楽しい。
読了日:08月10日 著者:柏井 壽


夜空の呪いに色はない (新潮文庫nex)夜空の呪いに色はない (新潮文庫nex)感想
この物語に登場する人物は皆、純粋である。しかも若くても大人になると言うこと、失うと言うことがどういうことか知っている。たとえ十分な経験がなくとも、世界が完璧でないことを知っている。どうすれば良いか解らないからといって虚無的な態度に逃げるような浅はかなバカでもない。あくまでひねくれたりひがんだりすることなく知的で、物事を真正面からとらえている。おそらく自分の一部を捨てるという否定から始まった物語は登場人物がその物語を否定することによって肯定に変わる。この物語は悲劇では終わらない気がする。次作完結編に進む。
読了日:08月10日 著者:河野 裕


きみの世界に、青が鳴る (新潮文庫nex)きみの世界に、青が鳴る (新潮文庫nex)感想
もし成長の過程で捨てた自分の一部を別の世界で生きつづけさせることができたら。この物語はそうしたことをモチーフとして書かれたのだろう。憐憫かもしれない。感傷的に過ぎるかもしれない。しかし若さとはそういうものだろう。変わりたくない自分がいる。捨てたくない夢がある。最終的に選ばなかったものの、あのときそうしていればという選択がある。還暦近くなった私でも、そうした若さを思うとき涙を流しそうになる。それは自分の心の中の奥底に閉じ込めているやわらかく傷つきやすい部分だ。本シリーズで若かった頃の心緒に触れた気がする。 
読了日:08月22日 著者:河野 裕


風のかなたのひみつ島 (新潮文庫)風のかなたのひみつ島 (新潮文庫)感想
壱岐島に旅行したときにバッグに詰めて携行した本。島に行くときこれほど携行するにふさわしい本もあるまい。東ケト会のころに比べると歳を重ねた落ち着きを感じるものの、シーナさんの島に対する偏愛ぶりは健在である。答志島、網地島、粟島、池間島加唐島怒和島奄美大島加計呂麻島・・・未だ行ったことのない島ばかりである。いずれ自転車旅のコースに入れて訪れるとしよう。自転車と本とカメラ。それらを携えて島に渡り、島の魚と冷たく冷えたビールがあれば島は天国だ。
読了日:08月23日 著者:椎名 誠


週刊 「 司馬遼太郎 街道をゆく 」 17号 5/22号 壱岐・対馬の道 [雑誌] (朝日ビジュアルシリーズ)週刊 「 司馬遼太郎 街道をゆく 」 17号 5/22号 壱岐・対馬の道 [雑誌] (朝日ビジュアルシリーズ)感想
壱岐島クルーズに出かける際、本棚から抜き出して持っていった。島に息づく歴史、島の風土、司馬遼太郎の時空を超えた旅がビジュアルに蘇る。同じく玄界灘に浮かぶ島であっても、壱岐人が農耕と対馬人が漁村と気質が違い、お互いに反目していることが興味深かった。実際に壱岐島で赤雲丹丼を食べているときに壱岐の人と話してみてそれを確認して笑ってしまった。また現在の壱岐の人は長崎県人でありながら、長崎に行くことはまれで、福岡の文化圏であると聴いて興味深かった。旅をするとき、その地の巻を持っていくと旅に興を添えることができる。
読了日:08月29日 著者: 


貝がらと海の音 (新潮文庫)貝がらと海の音 (新潮文庫)感想
ひと言でいうと満ち足りた老後。ここには幸せのかたちがある。それは普遍的な幸せではないかもしれない。でも私がそうありたいと願う幸せそのものだ。何もかもがそろっているというのでははい。贅沢をしているのでもない。老いに伴うちょっとしたイヤなこともある。たとえばものを落としそうになってもとっさに反応できない。お茶をこぼしてしまうこともある。そうした老いを受け入れて、今ある現状を、毎日を肯定する。歳をとれば誰もが自然にそのような境地になれるわけではない。おそらくそうあるために積み重ねてこられたものの結果だろう。
読了日:08月31日 著者:庄野 潤三


酒呑みに与ふる書酒呑みに与ふる書感想
五月に京都で書店めぐりをしたときに買った一冊。上京区俵屋町の「誠光社」であった。装丁はあまり好きではない。表紙にごちゃごちゃと活字が踊っているしその書体も陳腐だ。美しくないのである。しかし、このアンソロジーに収められている作品の作者を見るや、これほどの豪華作家陣を目にして買わずにはいられないではないか。
読了日:08月31日 著者:マラルメ,村上春樹,川上未映子,角田光代,小池真理子,いしいしんじ,田村隆一,木山捷平,中島らも,谷崎潤一郎,森澄雄,岡田育,安西水丸,草野心平,菊地信義,夏目漱石,室生犀星,菊地成孔,藤子不二雄A,内田樹,鷲田清一,ボードレール,堀口大學,江戸川乱歩,佐藤春夫,井伏鱒二,吉行淳之介,開高健,伊集院静,北方謙三,松浦寿輝,古井由吉,島田雅彦,吉井勇,大伴旅人,折口信夫(訳),松尾芭蕉,佐伯一麦,福田和也,水上瀧太郎,吉田健一,丸谷才一,中村稔,大岡信,筒井康隆,ヴァレリー

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