2020/04/04
うららかな春だというのに、世間は新型コロナウイルスで騒がしい。不要不急の外出を避けよとのお達しもある。家にじっとしていても良いのだが、要は他人との接触を避ければ良いのだろう。その意味でサイクリングは絶好のレクリエーションだ。もちろん、飲食店その他の店に立ち寄ったり、観光地で人と話したりしては意味が無い。飲み物と弁当を持って、つれ合いと二人だけで花見サイクリングをしようと決めて出かけた。いわば鄙を楽しむ黙々サイクリングである。
往路復路は鉄道を利用せず車で輪行した。落合総合公園に車を駐め、そこからは自転車。目指す醍醐桜まで片道約20㎞の道のりである。落合から関までは備中川沿いに平坦な道、関からは坂を登る。高低差は400mほどある。
この春を待ってましたとばかりにさえずる鶯などの小鳥、川に悠々と浮かぶヒドリガモ、路に咲く草花、そしてもちろん見事に咲き誇る桜に眼を楽しませながらゆっくりと吉備路を走る。おだやかで美しい日本の鄙がある。
醍醐桜を観るまでの道のりで、塩滝、カタクリの群生、ゴミのモニュメント「真庭のシシ」も観ることができた。「真庭のシシ」は瀬戸内国際芸術祭2019にあわせ、JR宇野駅前の宇野港シーサイドパークに展示されたものだ。4月中旬まで旧別所小学校の前に展示してある。ラッキーであった。
目的の醍醐桜まではけっこう急な坂を登る。車が対向して行き違いが難しいほどの狭い路である。後ろからどけどけとばかりに追い抜いていく車にバカヤロメ光線を浴びせながら必死にペダルを踏む。しかし、坂はますます急になっていく。とうとう自転車を降りて押して上がった。それにしても、お年寄りや障がいのある方はともかく、若い者が狭い路を車で上がるのはどうなのだ。地元の人はこの時季、大渋滞に迷惑しているにちがいあるまい。途中、歩いて登っていらっしゃる70歳前後のお年寄りグループと挨拶を交わしたが、矍鑠とした足取りで笑顔が輝いていた。この国は年寄りのほうが元気だ。案の定、醍醐桜が近づいてくると、車は大渋滞でほとんど動かない。だから、下の第一駐車場から歩けばよかったのだ。我々は人混みから離れて桜を見物し、写真を撮った。日差しがやわらかくあたたかいので、見晴らしの良いところに腰掛け、弁当を食べた。弁当と言っても、若生昆布のおにぎりと玉子焼きだけのシンプルなものである。しかし、若生昆布の塩気と旨味たっぷりのおにぎりの味は絶品である。太宰が愛したというだけある。醍醐桜は千年の時を経ているそうだ。隣に二代目が植えてあるが、まだまだ風格がちがう。青空をバックに堂々たる雄姿は、それほど近づかなくても充分楽しめる。千年生き抜いた桜に比べ、その下で必死にスマホで写真を撮っている人間のなんと眇たることか。車でここまで乗り付け、かかとの高い靴でよたよた歩いている若者よ、杖も持たずリュックを背負い背筋を伸ばして歩いていらっしゃるお年寄りを見習いなさい。かく言う私も偉そうなことは言えない。酒の飲み過ぎで腹は出ているし、始終キーボードに向かっているので猫背である。少しは反省して、正しい年寄りを目指すのだ。