佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『人生で大切なことは泥酔に学んだ』(酔人研究家・栗下直也:著/左右社)

『人生で大切なことは泥酔に学んだ』(酔人研究家・栗下直也:著/左右社)を読みました。『dancyu (ダンチュウ) 2020年11月号「真っ当な酒場」』(プレジデント社)に紹介されていたのを読みたくなり図書館で借りたものです。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

酒癖がヤバいのにどう生きていくか。それが問題だ――。


泥酔の星(?)栗下直也が描くアクの強い偉人の爆笑泥酔話27。福澤諭吉から平塚らいてう、そして力道山まで
日本は失敗が許されない社会といわれ、一度、レールを踏み外すと再浮上が難しい。
しかし、悲しいかな、酒を呑んでしくじったところで人生は終わらない。
出世に通勤、上司、危機管理、宴会から健康。
笑え。潰れるな。バカにされても気にするな! ! ! !


彼らはしくじりながらも、それなりに成功を収めた。現代とは生きていた時代が違うと一刀両断されそうだが、彼らは彼らで当時は壮絶に叩かれたり、バカにされたりしている。プライバシーなど皆無な時代なのだから想像するに難くない。それでも前を向いて生きた。ーー「はじめに」より


登場する偉人たち
太宰治福澤諭吉原節子三船敏郎小島武夫・梶原一騎横溝正史平塚らいてう河上徹太郎小林秀雄・永淵洋三・白壁王・源頼朝藤原冬嗣力道山大伴旅人中原中也梶井基次郎辻潤黒田清隆・米内光政・古田晁・泉山三六・藤沢秀行梅崎春生葛西善蔵藤原敏男

 

酔いがまわって師匠の妻を全裸で通せんぼ
日本開国の父・福澤諭吉

泥酔し大砲で住民を誤射、妻斬り殺しの容疑までかかる
第2代内閣総理大臣黒田清隆

ウィスキーを呑みながら日本刀で素振り
世界のミフネ・三船敏郎

家に石を投げられても飲酒をやめなかった
女性解放運動の先駆者・平塚らいてう

無銭飲食で親友檀一雄を置き去り、おかげで『走れメロス』を書いた
天下のナルシスト・太宰治

 

人生で大切なことは泥酔に学んだ

人生で大切なことは泥酔に学んだ

  • 作者:栗下直也
  • 発売日: 2019/07/01
  • メディア: 単行本
 

 

 

 60年あまり生きてきて、酒の失敗は数多ある。よくまあ無事で今日があるものだと思える。繁華街の近くの道端で朝まで寝てしまったこと、怪しいタクシーに山中に連れ込まれてから起こされたこと、携帯電話はいくつか無くした、財布を落としたことも、朝目が覚めれば鞄の中が殆ど空だったこともあった。

 名をなした人物の中にも酒にまつわる失敗や武勇伝がある。本書のコンセプトは「偉人の泥酔ぶりから処世術を学ぶ」だ。

 本書の手始めは太宰治。世に太宰ファンは多いが私はそうでもない。無頼派で売った彼の内に隠しきれない弱さが痛々しくてまともに見ていられないのだ。だが、酒の視点で太宰を見ると彼のことがたいへん良く判る。本書に太宰のエッセイ「酒ぎらい」から次の引用がある。

酒を吞むと、気持ちを、ごまかすことができて、でたらめを言っても、そんなに内心、反省しなくなって、とても助かる。そのかわり、酔がさめると、後悔もひどい。

 非常に良く判る。その気持ちが私にも痛いほど判る。太宰の葬儀委員長を務めた作家の豊島与志雄の太宰評「口を開けば率直に心意を吐露し、気恥ずかしくなり照れ隠しに酒を飲む。人と逢えば酒の上でなければうまく話が出来ない」とも符合する。

 太宰の無頼は作家としての謂わば芸風。しかし雀士・小島武夫こそはホンモノの無頼派だと感じ入った。稼いでも稼いでも「吞む打つ買う」でいつも金に不自由していたようだが、ちまちま小金を貯めたヤツよりもよほど倖せな人生を送ったに違いなかろう。

 河上徹太郎はトラ箱のお世話になったし、小林秀雄は駅のホームから落下したことがあるという。こうしたエピソードはなぜか妙にうれしい。ちなみにトラ箱は平成19年に閉鎖されたらしい。河上徹太郎がトラ箱のお世話になった昭和47年はトラ箱に収容された者は年間12,798人だったが、平成18年には500人ほどになっていたそうだ。世の中がつまらなくなっているのはこういうところを見ても判る。私は半年前まで会社勤めをしていたが、近年の会社勤めはどんどん窮屈になってきたなぁと感じていた。世の中全体が生産性向上だの、コンプライアンスだの、ちまちまと小うるさいことを言う。私がいた会社はまだましな方だったが。しかしなにかおかしくないか。朝から晩までピシッと品行方正にしていても仕事が出来なければ意味がない。仕事とは目的目標を達成することであって会社で行儀良くしていることではない。野球マンガあぶさん』のモデルになった永渕洋三のエピソードも然りである。

 本書で多くの有名人がけっこう酒で失敗していたことを知った。それを読んで、その人物を軽蔑したかといえば、否である。かえって親しみを覚えた。己の酒に対するだらしなさが少しは救われた気がする。もちろん酒癖の悪さはけっして褒められたことではない。しかし、誰か落語家が言っていた。「キチンとした人間は面白くない。欠点やスキのある人間の方が人に好かれるもんですな」と。ちと、言い訳がましいか。