佐々陽太朗の日記

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『石平の眼 日本の風景と美』(石平:著/ワック)

『石平の眼 日本の風景と美』(石平:著/ワック)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

中国人が憧れた風景と美が日本にあった。日本の自然と文化と歴史がつくり出す風景と美に魅せられて、四季折々の各地を旅し、活写した石平氏による珠玉のフォトエッセイ。


目次はじめに―美しい日本と私春―なぜすぐに散る桜を日本人は愛でるのか(花は桜木、人は武士敷島の大和心を人問わば朝日ににおう山桜花 ほか)夏―憧れの海と日本人の美意識(日本の美しい海と私日本の美しき清流と禊ぎの文化 ほか)秋―侘び・寂びを被写体にして(「古寺と紅葉」を愛でる日本の美意識私の山歩きと思い出 ほか)冬―日本人の信仰心のルーツを求めて(私と富士山、そして日本人と富士山与論島で見たこと、思ったこと ほか)

帰化した石平だから写せた日本人の心天安門事件で多くの友を失った青年祖国・中国への辛辣さとは裏腹の心に沁みる魂の写真集。

 

 

石平の眼 日本の風景と美

石平の眼 日本の風景と美

  • 作者:石平
  • 発売日: 2020/06/20
  • メディア: 単行本
 

 

 

 日本には四季折々の美しい風景がある。それは自然の織りなす美であるが、その美しさは「自然の美であると同時に、自然と文化と歴史が渾然一体となってつくり出す格別な美でもある」と石平氏は言う。この一言で、石平氏の出自が中国であるにも関わらず、日本という国をよく理解したうえで、この国を心から愛していることがうかがえる。

 本書は石平氏一眼レフカメラを携えて、日本の美を撮り歩いた写真とそれに寄せたエッセイが収められたもの。石平氏だからこそ、日本にあって中国にないものという視点で「日本の美」の本質に迫れるのではないかと思う。「花は桜木、人は武士」についての一節を引く。

 武士道というのは、「武力」に物を言わせるような乱暴なものでもなければ、「忠義」とか「信義」とかの儒教的倫理観で語り尽くせるものでもない。それは簡単と言えば簡単で、要するに「潔い」とか「高潔」とかの言葉で表現されているような人間的美学であり、日本人としての心の構えである。

 その根底にあるのは、まさに神道で言うところの「清き明き心」であり、本居宣長の言うところの「大和心」そのものである。

 いやはや、日本に帰化なさったとはいえ元中国人でいらっしゃる石平氏から本居宣長の「大和心」という言葉が出ようとは。日本は古くから大陸からの文化を学びその影響を受けてきた。老荘思想然り、儒教しかりである。ただそうしたものを知識として学びつつも日本人は古来からもともと持っていた自然情緒や精神を第一義としてきた。それは日本人が中国的な考えや行い、あるいは朝鮮的なそれとけっして同化することが無く一線を画していることで明らかだろう。中国人であった石平氏からすれば、中国文化をルーツとして日本文化があるとして、中国文化を賛美したいとするのが普通であろう。しかし、孔子その人には好意的であったにせよ「儒教の教えを自然に背く考えである」とした本居宣長に近いところまで考えいたるとは驚いた。それだけ日本と日本人を深く理解していらっしゃるということだろう。

 本居宣長菅原道真を引き、中国的なものの考え方に汚染されてはならないとする石平氏に多くの日本人は学ぶべきだろう。石平氏は言う。

「常に戦争に備えておくのは武士たちの基本的な考えであり、平和は戦争への備えによって守られている」

「歴史の教訓から、日本人と日本国は、やはり中国大陸に夢を託してはならないし、大陸に深入りしない方がいい」

 蓋し慧眼。