佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『桜風堂ものがたり』(村山早紀:著/PHP研究所)

『桜風堂ものがたり』(村山早紀:著/PHP研究所)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

百貨店内の書店、銀河堂書店に勤める物静かな青年、月原一整は、人づきあいが苦手なものの、埋もれていた名作を見つけ出して光を当てるケースが多く、店長から「宝探しの月原」と呼ばれ、信頼されていた。しかしある日、店内で起こった万引き事件が思わぬ顛末をたどり、その責任をとって一整は店を辞めざるを得なくなる。傷心を抱えて旅に出た一整は、以前よりネット上で親しくしていた、桜風堂という書店を営む老人を訪ねるために、桜野町を訪ねる。そこで思いがけない出会いが一整を待ち受けていた……。
一整が見つけた「宝もの」のような一冊を巡り、彼の友人が、元同僚たちが、作家が、そして出版社営業が、一緒になってある奇跡を巻き起こす。『コンビニたそがれ堂』シリーズをはじめ、『花咲家の人々』『竜宮ホテル』『かなりや荘浪漫』など、数々のシリーズをヒットさせている著者による、「地方の書店」の奮闘を描く、感動の物語。

 

桜風堂ものがたり

桜風堂ものがたり

  • 作者:村山 早紀
  • 発売日: 2016/09/20
  • メディア: 単行本
 

 

 村山早紀さん、初読みです。ジュブナイル作家さんなのですね。齢六十一を数える私めには若干のアウェー感といいますか、場違い的居心地の悪さを感じながら読み始めました。しかし読み進めるうち、ものがたりにからめとられ、夢中になって読みました。

 本と本屋と”本と本屋が好きな人”の物語です。

 生きていれば困難に遭う。中には再び立ち上がることは出来ないのではないかと思えるほどのことも。でも生きていればとてつもなく幸福な瞬間もある。だからいい。それでいい。生きるということはそういうことなのだ。そうしたことが、時代から取り残されつつある鄙びた町の本屋の物語として描かれる。神様は時折いじわるになる。しかしその先には必ず祝福が用意されている。真心を持って、周りの人を気遣いながら生きていればきっと。村山さん、ここに書かれているのはきっとそういうことですね。

 春が待ち遠しい。桜風堂のある町の春のように、うららかな日和に見事に咲く花を早く見たい。そんな気持ちになりました。
「スベテヨハ、コトモナシ」
 エンディングでオウムが高らかに叫んだこの言葉は、私が毎年春になると思いうかべる詩に重なる。そうブラウニングの詩です。

時は春、
日は朝、
朝は七時、
片岡に露みちて、
揚雲雀なのりいで、
蝸牛枝に這ひ、
神、そらに知ろしめす。
すべて世は事も無し。  (上田敏訳・「海潮音」より)

 今日は2月初旬にしては穏やかで暖かい日。たまたまではあるがこの時季にこの物語を得ためぐり合わせに感謝。