佐々陽太朗の日記

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『時宗〈巻の四〉戦星』(高橋克彦:著/NHK出版)

2023/03/20

時宗〈巻の四〉戦星』(高橋克彦:著/NHK出版)を読んだ。

 まずは出版社の紹介文を引く。

時頼の死から十一年後、日本に狙いを定めたクビライの軍団がついに大陸から出撃を開始する。鎌倉幕府執権の北条時宗は国を守り抜くため、父が遺した究極の作戦の封印を解いた。そして九州の武士団を中心とした時輔と太郎率いる日本軍は、怒濤の勢いで押し寄せる蒙古の大軍と、度重なる激闘を展開する―。歴史の大転換期を駆け抜けた鎌倉の男たちの、熱き魂を描いた待望の最終巻。

 

 

 いよいよ最終巻。当然のことながら元寇がクライマックスとなる。読みどころは北条時輔の動き。時輔については1272年二月騒動で執権である弟・時宗の追討を受け、六波羅北方の義宗により襲撃を受けて誅殺されたとする説が有力説。しかし、本書では時輔は吉野へ逃れた後、高麗へ渡り、蒙古の実情を探ることで時宗を陰で支え続け、蒙古襲来時には九州で戦ったとの解釈が取られる。いやぁ、ぶっ飛んでますなぁ、高橋先生。しかし、読み物としてはこのストーリーが圧倒的におもしろい。なぜなら、異母兄弟ながら、兄は弟を思い支え、弟は尊敬する兄を差し置いて執権の座につくことを申し訳なく思いつつ、苦しみながらも己が責任を全うしようとするお互いの姿が美しいからである。前巻では彼らの父・時頼が世を権力争いの混乱に陥れないよう慮り、長子である時輔でなく正室の子・時宗にあとを継がせる決意が描かれた。そういえば「時輔」とはこの時頼の考えをあらわした名であり、その心は正嫡時宗を「輔る」(たすける)意なのだ。思い起こせば、前巻でかわいい息子の時輔に、弟時宗を支えよと涙ながらに説く父・時頼の姿、そして父の深い考えを理解し己を殺して控えにまわる決意をする時輔の姿に私も涙したのであった。大きな責任を負う立場の者は時に非情にならず、またそうあってこそ臣民は従うのだということだろう。公より私利を優先する行動が散見される昨今のリーダーの浅ましさが脳裏をよぎる。自己犠牲の精神など過去の遺物と化してしまったのかもしれない。