レイモンド・チャンドラーをついに村上氏が翻訳した。
- 作者:レイモンド・チャンドラー
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2007/03/08
- メディア: 単行本
「THE LONG GOODBYE」は清水俊二氏の訳で以前に読んでいるが、村上春樹訳が出たとなると読まねばなるまい。と、amazonで即購入。分厚いハードカバーが届いた。
私は通常ハードカバーは買わない。鞄やポケットに文庫本をしのばせ、暇があれば読むというスタイルなのである。仕事が終わった夜はたいてい酔っ払っているので、日中の少しの空き時間に読まなければ未読本がたまる一方だからだ。しかし、今回は久しぶりの新刊単行本。ウヒヒ。楽しみ、楽しみ、ウヒ、ウヒッ・・・・。
チップ・キッドの手になる装幀もカッコイイ。期待が高まる。まてまて、と裏を見る。帯にカズオ・イシグロ氏のコメント。「ハルキによるレイモンド・チャンドラー。巨匠の翻訳で巨匠の作品を読むことができる日本の読者は、なんと幸せなことでしょう。・・・・・・」 そうなのだ。私はその幸せな日本人なのだ。ウヒ、ウヒッ・・・・。後ろのページを1,2,3と捲る。
2007年3月10日 初版発行
2007年3月19日 10版発行
ゲゲッ! わずか9日で第10版とな。恐るべしチャンドラー人気。凄いぞ村上春樹。
後ろのページをパラパラ。なんと、村上氏による「あとがき」が90ページも! 気合入りすぎだぜ〜ハルキ。
いよいよ本文を読む。やはり氏の文章は美しい。カッコイイ。清水俊二氏のチャンドラーも大好きだったが、村上氏はまた格別である。すこし言い回しに凝りすぎる嫌いがあるが、ファンにとっては、そこがいいのである。日曜日の「週刊ブックレビュー」で逢坂剛氏が村上氏の訳は饒舌すぎると云っていたが、なかなかの名訳である。比較してみよう。
【清水俊二氏訳】
私は唇をかみながら車を家へ走らせた。私はめったに心を動かされない性質だが、彼はどこかに私の心をとらえるものを持っていた。それが何であるかはわからなかった。わかっているのは白髪と疵あとのある顔とはっきりした声と礼儀が正しいことだけだった。それでいいのかもしれなかった。もう二度と彼に会うことがあるかどうかわからない。あの娘がいったように、迷い子の犬にすぎないのだ。
【村上春樹氏訳】
唇を噛みながらハンドルを握り、帰路についた。私は感情に流されずに生きるように努めている。しかしその男には、私の心の琴線に触れる何かがあった。それがどんなものなのかはよくわからなかった。その白髪か、顔の傷跡か、明瞭な発音か、礼儀正しさか。まあその程度のものだろう。私が彼と再び顔を合わせる理由もないだろう。彼はただの迷い犬なのだ。あの若い女が言ったように。
美しい文章だ。ハルキファンにはたまらない。
さてつづきを読もう。