佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

藤沢周平「たそがれ清兵衛」を読む

 藤沢周平の短編集「たそがれ清兵衛」(新潮文庫)を読了。

 2年ほど前、先に山田洋次監督、真田広之主演の映画をDVDで見ていたので、文庫本を持ってはいたがそのうち読もうと1年以上放っていたものだ。読んでみてわかったのだが、映画と原作では話のすじが相当ちがっている。しかし、下級武士であるがゆえに、世の中の動きや藩の重役による政争の波に翻弄される運命のなかにあって、静かに波を見つめ、侍として凛として信念を貫く姿を描いている点で、山田洋二監督は映画で藤沢の世界を忠実に描いているといえる。
 大衆小説、時代小説はともすれば軽く扱われがちだ。しかし私は藤沢氏の描く主人公が持つ「侍としての矜持」に感銘せずにはいられない。登場人物が示す弱いものへの細やかな愛情に、人の世も捨てたものではないと心が温まる思いである。