佐々陽太朗の日記

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『天保悪党伝 / 藤沢周平(著)』(新潮文庫)を読む

「おれも悪(わる)なら、金子市も悪。おれたちはそのようにしか生きられねえのだ。おめえがいちいち気に病むのはよしな。いいか」
 三千歳の胸に、直次郎の声がこれまでになく、あたたかく入りこんで来た。三千歳は笑った。

天保悪党伝 (新潮文庫)

天保悪党伝 (新潮文庫)

藤沢周平氏のピカレスク小説である。藤沢氏にはめずらしい。いつもの藤沢小説を期待して読むと肩すかしを喰らった感じは否めない。いつもの藤沢小説というのは、たとえば組織や世の定めの中にあって弱い立場の者が、どうしようもない運命に従いながらもその心は真を失うことなく一分をたてる、そのような小説である。
しかしこの小説は天保の世の悪党の話である。悪党が主人公の話と合っては読者はなかなか主人公に自分を投影できない。しかし、主人公は悪党ではあっても、それぞれがそのようにしか生きられない背景を持っている。そのあたりの描き方はさすがだ。
藤沢氏はこれらの小説をどのような気持ちで書かれたのか。私にはこんな小説も書けるよという気持ちだったのだろうか。判らない。しかしまあ意欲作には違いない。点数にすると5点満点中2点と云ったところか・・・


裏表紙の紹介文を引いておきます。

天保年間の江戸の町に、極めつきのワルだが、憎めぬ連中がいた。博打好きの御家人・片岡直次郎、辻斬りで財布を奪う金子市之丞、抜け荷の常習犯・森田屋清蔵、元料理人の悪党・丑松、ゆすりの大名人として知られた河内山宗俊、そして吉原の花魁・三千歳。ひょんなきっかけで知り合った彼らが、大胆にも挑んだ悪事とは…。世話講談「天保六花撰」に材を得た痛快無比の連作長編。