7月11日
辰巳八景
切腹には『三つの規矩』と、『四つの間』という心得がある。主税殿には、あの若さでありながらも天晴れなことに、腹を召す心構えが備わっておる
(本書42P)
裏表紙の紹介文を引きます。
手をつないだわけでもない。好き合っていたのかもわからない。それでも祝言を挙げると知ったあの時、涙がどうしても止まらなかった…。遠い日の思い人と再会する女性の迷いと喜びを描く「やぐら下の夕照」。売れない戯作者がボロ雪駄の縁で一世一代の恋をする「石場の暮雪」。江戸深川の素朴な泣き笑いを、温かで懐かしい筆が八つの物語に写し取る。著者の独壇場、人情の時代短編集。
江戸深川を舞台にした市井時代小説です。「辰巳」とは江戸深川のこと。深川は江戸城の辰巳の方角(東南)にあたるからです。山本一力氏が長唄『巽(辰巳)八景』に材を得て紡いだ八篇の物語です。
長唄と小説の題名は次のとおり。
長唄『巽八景』 | 小説『辰巳八景』 |
永代の帰帆 | 永代橋帰帆 |
八幡の晩鐘 | 永代寺晩鐘 |
仲町の夜雨 | 仲町の夜雨 |
佃島の落雁 | 木場の落雁 |
新地の晴嵐 | 佃島の晴嵐 |
洲崎の秋月 | 洲崎の秋月 |
櫓下の夕照 | やぐら下の夕照 |
石場の暮雪 | 石場の暮雪 |
八編とも極上の物語です。それぞれ味わいが深く、私は一篇読み終えるごとにしばらく心地よい余韻に浸りました。中でも「永代寺晩鐘」と「やぐら下の夕照」が秀逸。