佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

津軽百年食堂

いつものように哲夫は食堂の上座に祀った神棚に向かって立った。その右側に明子、左側には母が立つ。そして、三人そろって柏手を打ち、しばらく両手をあわせたまま黙祷をした。

哲夫の祈りの内容は、二十年間以上ずっと同じだ。

 

今日もまた、普通の一日でありますように――。

 

                   (本書P9より抜粋)

 

津軽百年食堂』(森沢明夫・著/小学館文庫)を読みました。

 

裏表紙の紹介文を引きます。


 

明治時代の津軽弘前でようやく地元の蕎麦を出す食堂を開店した賢治。それから時は流れ、四代目にあたる陽一は、父との確執から弘前を離れて、東京で暮らしていた。故郷への反発を抱えながら孤独な都会で毎日を送っていた陽一は、運命に導かれるように、同郷の七海と出逢う。ある日、父が交通事故で入院し、陽一はひさしぶりに帰省する。恋人の七海が語っていた幼い頃の思い出や、賢治の娘でもある祖母の純粋な心に触れて、陽一の故郷への思いは、少しずつ変化していく。桜舞う津軽の地で、百年の刻を超え、受け継がれていく美しい心の奇跡と感動の物語。


 読みながら、大森食堂を受け継いできた初代から四代目の家族の幸せを祈るような気持ちで願い、この家族の温かさに触れるにつけ胸を熱くしました。多くを望まず一日一日を真心を持って暮らす。お客様の「おいしかった」という笑顔を見ることができた。そんなささやかな喜びに幸せを感じて生きる。そうした一日一日の積み重ねで百年つづいてきた食堂。真心が親子四代にわたって受け継がれてきたことによる奇蹟に涙した。

 物語の構成はそれぞれの登場人物の視点から描く節を、現在、過去と時代を行き来しながらカットバックの手法を用いて作り上げている。その手法は、それぞれの純真で温かい心の内が伝わってくる点、読み進めるにつれ、四代つづいた大森食堂の古今が明らかになってくる点、そして、節ごとにちりばめられたエピソードが最終節で「初代と初代を取り巻く人々の思いが四代目に引き継がれるという仕掛け」に結実する見事さに繋がっている点で生きてくる。この手法はおそらく映画において、より生きてくることだろう。ただし、残念ながら映画を観る気にはなりません。小説を読んでから映画を観ると頭の中で思い描いていた画と映画とのギャップにガッカリすることが少なくない。この映画のキャストを見ると四代目・大森陽一役に藤森慎吾(オリエンタルラジオ)、その父・三代目・大森哲夫役に伊武雅刀。はっきり言って私のイメージと相容れません。誠に残念です。

 話を物語に戻す。物語の主役たる大森食堂の親子四代は真心を持ってひたむきに生きる善良な人たちだ。そして、今も昔も善良な心を持ってひたむきに生きる人に対して、世の風は厳しく辛いことが少なくない。善良であるが故に、それが弱さに繋がってしまうこともある。器用に立ち回ることができず、それゆえ裕福な暮らしはできないけれど、頑なに大切なものを守り続ける。当たり前のことを当たり前にする。家族を思いやり、周りの人を思いやって生きる。そうした人たちに神様は最後にはきっと温かく微笑んでくださると信じたい。そんな祈りにも似た気持ちを抱かせてくれる心温まる物語でした。

 

 ちなみに著者の森沢明夫氏がこの小説『津軽百年食堂』を書くにあたって取材したお店が巻末に紹介してある。青森県が定めた「百年食堂」の定義は「三世代、七十年以上つづいている大衆食堂」というものらしい。下記にリストアップした。いつか、できれば「さくらまつり」がある時季に青森を訪れたい。そして、リストにあるお店で食事したい。


津軽百年食堂リスト

1.いこい食堂(大鰐町蔵館)
  http://r.tabelog.com/aomori/A0202/A020205/2006151/

2.亀乃家(五所川原市上平井町4)
  http://r.tabelog.com/aomori/A0205/A020502/2000424/

3.三忠食堂(弘前市和徳町)
  http://r.tabelog.com/aomori/A0202/A020201/2000106/

4.神武食堂(つがる市木造)
  http://r.tabelog.com/aomori/A0205/A020501/2004066/

5.すごう食堂(黒石市一番町)
  http://blog.goo.ne.jp/yamadera1015/e/a7ec892fd8d6b463c144d78baf26a98d

6.大十食堂(平川市尾上)
  http://r.tabelog.com/aomori/A0202/A020202/2002575/

7.長崎家(黒石市市ノ町)
  http://marugoto.exblog.jp/9420307

8.日景食堂(大鰐町大鰐)
  http://dondoko.blog.shinobi.jp/Entry/485/

9.山崎食堂(大鰐町大鰐)
  http://r.tabelog.com/aomori/A0202/A020205/2000784/

10.来々軒弘前市茂森町)
  http://r.tabelog.com/aomori/A0202/A020201/2000159/