佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

きみが見つける物語 十代のための新名作 恋愛編

「へー……かわいそう」

 男が警戒心を感じさせなかったせいだと思う。いつのまにか男の前にしゃがみ込んでいた。

 と、男がぽんとさやかの膝に丸めた手を載せた。

 そして、

「お嬢さん、よかったら俺を拾ってくれませんか」

 そう言った。

 まるで犬のお手みたい。膝に載った手を見ながらそんなことを考えていたのでツボに入った。

「ひ……拾って、って。捨て犬みたいにそんな、あんた」

 クククと笑い転げていると、男は更に言葉を重ねた。

「咬みません。躾のできたよい子です」

「やだ、やめてー!」

 ますます笑いが止まらなくなった。

 今にして思うと、この瞬間をして魔が差したというのだろう。

                                   (本書P231 「植物図鑑」より抜粋)

 

『きみが見つける物語 十代のための新名作 恋愛編』(角川文庫)を読みました。「切ない話編」「休日編」につづき、このシリーズの三冊目である。

 

 

まずは出版社の紹介文を引きます。


LOVELY!!!!!!!!!!! いまどきあまい小説、集めました読者と選んだ読み切り小説集シリーズ完結!

はじめて味わう胸の高鳴り、つないだ手。甘くて苦かった初恋。一晩じゅう泣き明かした失恋でさえも、いつかたいせつにしまっておきたい思い出になる……。旬の作家が集結、それぞれが描いた恋の物語とは? いまどきの名作を厳選、超豪華ラインアップでおくる短編小説集『きみが見つける物語 十代のための新名作』。「恋愛編」には、有川浩乙一梨屋アリエ東野圭吾山田悠介の傑作短編を収録。


 

 

どうです? この五人の売れっ子作家ラインナップ、すごくないですか? これはたっぷり楽しめそうと胸をときめかせつつ読みました。誰ですか笑っているのは。五十すぎのオッサンでも胸はときめくのだ。文句あっか!

 

この「恋愛編」に収められているのは次の短編小説。

 

    (記載は タイトル・ 著者・ 収録元・ 出版社の順)

 

 それぞれについてひと言コメントをつけてみる。

 

「あおぞらフレーク」

梨屋アリエ氏の小説を読むのは初めて。なかなかセンスがある軽妙な小説。これぞ十代のための恋愛小説ですな。

 

「しあわせは子猫のかたち」

切ないミステリ&ファンタジー。私好みの秀作です。

 

「黄泉の階段」

良くできたお話だけに非常に印象に残る物語。ええぇっという驚きがふたつ。

 

「植物図鑑 Paederia scandens var. mairei」

会社からの帰り、道端に男(それも結構いい男)が落ちていた。”お嬢さん、よかったら俺を拾ってくれませんか? 咬みません。躾のできたよい子です”だとぉ。面白すぎるやないの。これは全篇読まずにはいられませんよ。積読本でキープしている単行本を読むこととしよう。

 

「小さな故意の物語」

 面白いことは面白いのだが後味悪し。