佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

凍りのくじら

今、どこの海にいますか。

あなたは私たちに迷惑を掛けずに済むように、

誰にも知られない場所で死ぬために消えたのですね。

あの後すぐに、どこかの海に飛び込んだのだと、私は確信しています。

                                             (本書P469より)

 

『凍りのくじら』(辻村深月・著/講談社文庫)を読みました。

 

 

まずは出版社の紹介文を引きます。


藤子・F・不二雄を「先生」と呼び、その作品を愛する父が失踪して5年。高校生の理帆子は、夏の図書館で「写真を撮らせてほしい」と言う一人の青年に出会う。戸惑いつつも、他とは違う内面を見せていく理帆子。そして同じ頃に始まった不思議な警告。皆が愛する素敵な“道具”が私たちを照らすとき―。

 


 

 私にとって『ぼくのメジャースプーン』に続き2冊目の辻村氏。松永くんとふみちゃんが登場しましたね。ウワサに違わず人物がリンクしています。辻村氏はたいへん頭が良いのですね。人のちょっとした心の動きの深層にあるものを言い当ててしまう。直感的に見抜いてしまうのでしょう。常人ならば見たくない部分が見えてしまうというのでしょうか。そのあたりが容赦なく書かれていて、しばしばドキリとさせられながら読みました。痛ましい結末を予感させて重苦しい空気の中で物語は進みますが、最後に救いが用意されているあたり、辻村氏の心の温かさを感じます。生きていればどうしようもないこともあるけれど、それでも人生は捨てたものじゃない。そんな風に思える小説でした。