佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

2013年の読書メーター その2


四季を和える―割烹の和えものの展開四季を和える―割烹の和えものの展開感想
上野さんとはじめて出会ったのは昨年の秋、丹波篠山に山の芋を掘りに行ったときのこと。神戸にあるお店「玄斎」に初めておじゃましたのは先月のこと。カウンターで美味しい御酒をいただきながら、料理を堪能させていただきました。さて、この本ですが和の和え物を季節ごとに写真入り、レシピ付きで紹介して下さっています。もう、見ているだけで涎がでます。とりあえず春の和え物をじっくりと読みました。定番の「たけのこの木の芽和え」はもちろんのこと、「飯蛸と分葱のぬた和え」は自分でも作ってみるつもりです。エンドウ豆が出たら鶯和えもね。
読了日:4月6日 著者:上野直哉
ナマコのからえばりナマコのからえばり感想
私の大好きな椎名誠氏のエッセイである。どうでも良いことかもしれないが、「私の大好きな」は「椎名誠氏のエッセイ」にかかる。これが「椎名誠氏」にかかるとすれば、多少問題をはらむのである。どうでも良いことを語ってしまった。かつて昭和軽薄体ともてはやされた椎名氏のおバカ・エッセイは健在である。予想どおり、排便・排尿関係の話も出てくる。一見、おバカではあるけれど、椎名氏が世間を見る目は正鵠を射ている。椎名氏は吠える。「若い男たちよ。ズボンをあげろ。お前らのパンツは愚かで汚い」と。まことに同感である。
読了日:4月7日 著者:椎名誠
今日を刻む時計 髪結い伊三次捕物余話 (文春文庫)今日を刻む時計 髪結い伊三次捕物余話 (文春文庫)感想
おっと、いきなり時計が十年進んでました。思わず読む順序を間違えたかと思いました。でも、第七作・第八作あたりで物語を紡ぐのに少々苦労していらっしゃるのかなと感じていたのですが、今作では時だけでなく筆がずんずん進んでいる様子に安心しました。登場人物が活き活きとして、読者が嬉しくなる展開を見せてくれる。このシリーズを読み続けて良かったと思う。自作も楽しみ。
読了日:4月8日 著者:宇江佐真理
本日7時居酒屋集合! ナマコのからえばり (ナマコのからえばり) (集英社文庫)本日7時居酒屋集合! ナマコのからえばり (ナマコのからえばり) (集英社文庫)感想
7時というのは椎名氏がアジトとしている新宿の居酒屋で最初の生ビールをグビグビと飲み「プハーッ」と言う時間なのだ。椎名氏は月20本以上の締め切りを抱えているのだ。まさに締め切り地獄なのだ。そのような毎日の中で、締切太郎、締切次郎、締切三郎と目の前の締め切りをやっつけ、居酒屋で「プハーッ」とやることを最大のヨロコビとする人生なのだ。誠にすばらしいのだ。飜って私は今日も大した仕事もせず、通勤バスの中で椎名氏のエッセイを読み、家に着くなり冷蔵庫の缶ビールのプルトップをプシューッと開ける人生なのだ。スマヌ、スマヌ。
読了日:4月9日 著者:椎名誠
短編復活 (集英社文庫)短編復活 (集英社文庫)感想
なんと言っても浅田次郎角筈にて」が良い。読むのはこれが三度目だが、やはり泣いた。バスの中だったが泣いた。志水辰夫プレーオフ」は軽妙な作品で意外だった。肩すかしを食らった感じ。東野圭吾「超たぬき理論」も意外。愉快な作品で大笑いした。逆に伊集院静「蛍ぶくろ」、北方謙三「岩」、山本文緒「いるか療法」はそれぞれの持ち味たっぷりだ。綾辻行人「特別料理」は反則技だ。私はこの短編を決して忘れることが出来ないだろう。あああぁあ〃〃おぞましいっ! 他はあえて評さず。
読了日:4月12日 著者:赤川次郎,浅田次郎,伊集院静,北方謙三,椎名誠,篠田節子,清水義範,志水辰夫,坂東眞砂子,東野圭吾,宮部みゆき,群ようこ,山本文緒,唯川恵
晩鐘 続・泣きの銀次 (講談社文庫)晩鐘 続・泣きの銀次 (講談社文庫)感想
『泣きの銀次』の続編である。『泣きの銀次』を読んだのは四年前の三月のこと。続編が出ているとはつゆ知らず。最近、完結編『虚ろ舟』が出たのを知って『晩鐘』とあわせて買いました。一度は十手を返した銀次が表勘兵衛に請われて再び十手を手にした。情け深い「泣き」は健在だった。つれ合いと子供を得て生きていく中で、銀次は更に人として深みを増した。完結編『虚ろ舟』を早く読みたい。しかし、これからまずは仕事だ。私も生きて家族を養わねばならない。泣きのウェルズ。(笑)
読了日:4月16日 著者:宇江佐真理
空洞化のウソ――日本企業の「現地化」戦略 (講談社現代新書)空洞化のウソ――日本企業の「現地化」戦略 (講談社現代新書)感想
著者・松島大輔氏は経済産業省入省後、インドやタイなどで日本企業の水先案内人をつとめていらっしゃる。現在のタイ王国政策顧問という立場から、日本企業の海外現地化による空洞化議論のウソをきちんとした根拠を基にわかりやすく解説。新興アジアには今後大きな伸びしろがある。日本企業の海外進出による国内空洞化よりむしろ海外進出しないことによる日本の未来の空洞化(不作為のリスク)こそが問題である。日本は「貿易立国」から「投資立国」として新興アジアを中心とした海外への生産拠点拡大、海外資産拡大を目指すべきだとする意見に納得。
読了日:4月18日 著者:松島大輔
世界を、こんなふうに見てごらん (集英社文庫)世界を、こんなふうに見てごらん (集英社文庫)感想
「神であれ、科学であれ、ひとつのことにしがみついて精神の基盤とすることは、これまで人類が抱えてきた弱さ、幼さであり、これからはそういう人間精神の基盤をも相対化しないといけないのではないか。・・・(中略)・・・どんなものの見方も相対化して考えてごらんなさい。科学もそのうちのひとつの見方として」という著者の言葉には全く同感である。その上で私は「人間は論理が通れば正しいと考えるほどバカである」という著者の指摘にハッとさせられた。アーサー・ケストラーの『機械の中の幽霊』を読むべきだな。ゴーストに会うために。
読了日:4月20日 著者:日高敏隆
卒業 (講談社文庫)卒業 (講談社文庫)感想
東野圭吾氏を少しずつきちんと読んでいこうと思いました。ふとそう思ったのです。東野氏の小説は過去に5作ほど読んでおり、中でも『手紙』『容疑者Xの献身』『さまよう刃』はすばらしい作品でした。東野作品を呼んでいく上で「ガリレオ」と「加賀恭一郎」の二つのシリーズは外せない。そしてシリーズを読む上で順序をばらばらに読むわけにもいかない。まずは加賀恭一郎シリーズから取りかかろうと思う。すでに『嘘をもうひとつだけ』を読んでいるが、第一話『卒業』から始めよう。密室殺人に加え花月札トリックとは・・・いきなり頭を使うなぁ。
読了日:4月23日 著者:東野圭吾
虚ろ舟 泣きの銀次参之章 (講談社文庫)虚ろ舟 泣きの銀次参之章 (講談社文庫)感想
『虚ろ舟』がUFOのことだと分かったときは違和感がありました。江戸時代の物語に登場させる必要があるのかと。しかし実際、江戸時代の文献に虚ろ舟は描き残されているらしいと知り了見した。さて、いよいよ泣きの銀次も最終章。心が晴れるハッピーエンドを期待したが、さにあらず。苦い結末となった。捕り物はいくら真剣に調べたところで全てが審らかになるわけではない。世の出来事に科学や論理で説明できないことは多い。人はそうした分からないこと、思い通りにならないことを了見して生きるしかないということか。己の正しいと信じた道を。
読了日:4月25日 著者:宇江佐真理
オブ・ラ・ディ オブ・ラ・ダ  (6) 東京バンドワゴン (集英社文庫)オブ・ラ・ディ オブ・ラ・ダ (6) 東京バンドワゴン (集英社文庫)感想
生きていくために金は必要だ。しかし、金だけでは充分でない。いや、生きていくのに金より大切なものがあると言うべきか。我南人それを「LOVE」だという。しかし私には「LOVE」などという小っ恥ずかしい言葉は使えない。家族や仲間、そしてお互いを大切に思いやる心。そういうものこそが必要なのだろう。自分の周りがそうしたもので満ちあふれていれば、「あぁ、生きていて良かった」と思えるはずだ。そうして仲間や家族は生き続けていく。別れと出会いを繰り返しながら。『Ob-La-Di, Ob-La-Da』人生はそんな風に続く。
読了日:5月2日 著者:小路幸也
旅の絵本II (改訂版) (安野光雅の絵本)旅の絵本II (改訂版) (安野光雅の絵本)感想
Ⅰ~Ⅶまで持つ『旅の絵本』のそのⅡ。今巻はイタリア。赤い花の咲く緑の丘陵。トスカーナ地方の美しい景色から始まり、小川に導かれるように人里に辿りつき、やがて街へ。芸術の街フィレンツェ、水の都ベネツィア。そしてまた田舎、やがて海へ。しばし、欧羅巴を鳥瞰しての旅に酔いしれました。今月の下旬(2013.5.25)にはⅧの初版が発刊されるらしい。Ⅷの舞台はいよいよ日本。安野さんの旅の後を追っていきたい。さて、今日は明石市立文化博物館で開催されている「安野光雅の世界展」に行く予定。天気も安野さんの画のように穏やかだ。
読了日:5月4日 著者:
火天の城 (文春文庫)火天の城 (文春文庫)感想
安土城築城に生涯をかけた岡部又右衛門以言と以俊の物語であるが、その築城プロセスを通じて実は信長の人物像が浮き彫りになるという小説上の趣向が凝らしてある。ここにあるのは信長と安土城の滅びの美学。天才として人智を超越した存在であった信長の姿は未曾有の巨城・安土城の姿とダブる。常人が常識とするものには嘘が多い。信長には常識にとらわれず真理に到達する純粋さがあったといえる。そして信長はその純粋さ(美しさ)によって滅び、滅ぶことによって永遠を獲得した。本能寺の変の直後に焼失してしまった幻の城・安土城も然りであろう。
読了日:5月8日 著者:山本兼一
花と火の帝(上) (講談社文庫)花と火の帝(上) (講談社文庫)感想
伝奇小説が好きだ。夢枕獏半村良山田正紀にはまった時期もある。山田風太郎も読んでいきたい。しかしまずは隆慶一郎を読み込みたい。『死ぬことと見つけたり』を読んで以来、すっかり隆慶一郎の魅力の虜になったのだ。人によっては登場人物に都合良く超能力を持たせてしまうなんてインチキくさいと敬遠される方もあるだろう。しかし私はそんなこと気にしない。私は物語を楽しみたいのであって、知識として史実を研究したい訳ではないのだから。隆慶一郎の筆によって存分に動く登場人物にわくわくしながら下巻に突入する。
読了日:5月12日 著者:隆慶一郎
花と火の帝(下) (講談社文庫)花と火の帝(下) (講談社文庫)感想
力による統治には限界があり、統治をどれほど強固に固めようとしてもいつかは綻びがでるということか。人は目の前の力に屈しても、内なる精神は決して屈することはないということなのだろう。もっと読んでいたかった。もっと、もっと、隆慶一郎氏の世界に遊んでいたかった。わかっていたことだが、連載途中での無念の絶筆。読者としてこれほどつらいことはない。しかし、『死ぬことと見つけたり』もそうであったが、たとえ未完成の作品であっても、この小説が輝きを失うことはない。私にとって忘れられない小説となった。
読了日:5月18日 著者:隆慶一郎
探偵ザンティピーの仏心 (幻冬舎文庫)探偵ザンティピーの仏心 (幻冬舎文庫)感想
世の中には法ってものがある。何人たりとも、その法を犯すことは許されない。と、まあ、これは建前だ。法は完全ではない。法が人間が作ったもので、法を作った人間自体が不完全なのであれば、それは当然の帰結といえる。では、法に従って生きることが、人を幸せにしないとすれば、それもまっとうな人間を幸せにしないとすればどうすべきか。その時は法の存在意義に従うしかない。法の存在意義、それはまっとうな人間が平穏無事に、そして幸せに暮らすこと。相変わらず小路氏の小説には悪人が登場しない。私が氏の小説を読みたくなる理由のひとつだ。
読了日:5月20日 著者:小路幸也
古寺巡礼 (岩波文庫)古寺巡礼 (岩波文庫)感想
仏教にも仏教美術にも疎い私が実際に仏像や画を見ることなく本書を読んでも底が知れるというものだ。しかし、この本の良さは分かったつもりだ。本書を持って大和の古寺を訪れたい。ありきたりだがそう思った。本書は1919年に出版されて以来、多くの人に読まれてきた。その多くの人が私と同じ思いを持っただろう。この岩波文庫「青144-1」は1946年に著者が手を加えた改訂版のようである。旧版に比べ添えた部分より削った部分が多いそうだ。ちくま学芸文庫から旧版が「初版 古寺巡礼」として出版されている。比べてみなければなるまい。
読了日:5月24日 著者:和辻哲郎
探偵ザンティピーの惻隠 (幻冬舎文庫)探偵ザンティピーの惻隠 (幻冬舎文庫)感想
シリーズ第3弾。おっと、また「骨」ですな。そして今回の事件でも「探偵は人がひた隠しにしてきた過去を暴いて良いものかどうか」、この疑問がザンティピーの前に立ちはだかる。もちろんそれが依頼に基づくものならば、依頼者に忠実に真実を伝えるべきだろう。でも、それが依頼に基づくものでなければ・・・。ザンティピーの答えは人の心に寄り添うものだ。そう、なによりも人を思いやる心を大切にする。人を思いやったとき、不都合なものは心の中にしまって墓まで持って行く。ザンティピーは心優しき探偵だ。悪くない。
読了日:5月25日 著者:小路幸也
じゃりン子チエ―チエちゃん奮戦記 (12) (アクション・コミックス)じゃりン子チエ―チエちゃん奮戦記 (12) (アクション・コミックス)感想
今巻もええ味出てます。ノイローゼになったマサル小鉄とジュニアの哲学的会話。元・地獄組組長レイモンド飛田の選挙立候補と落選。お好み焼き屋のオヤジ(百合根)の秘めたる過去と悩み。哀しく切ないが、何かしら温かい世界。あぁ、ええ味出てます。
読了日:5月25日 著者:はるき悦巳
ピーナツバター作戦 (Seishinsha SF Series)ピーナツバター作戦 (Seishinsha SF Series)感想
甘っちょろいといえば甘っちょろい。しかし、その甘さは決して安っぽいメロドラマではない。ロバート・F・ヤングの描く世界にはもっとピュアで気高いものがある。少年のころから思春期にかけて胸に抱いていたロマンチックな想い、そんな追憶が切なさとともによみがえってくる。そんな短編集です。こんな素敵な短編集を出版して下さった青心社に感謝。そして復刻版『たんぽぽ娘』が今、手元にある。河出書房新社にも感謝、感激、あめあられである。
読了日:5月29日 著者:ロバート・F.ヤング
HEARTBEAT (創元推理文庫)HEARTBEAT (創元推理文庫)感想
優しさは決して弱さの表れではない。逆に人は優しさの分だけ強くなれるのだ。これが、この小説のテーマなのだと私は思う。そして、この小説を魅力的にしているのは、この小説の底流にある男のセンチメンタリズムとロマンティシズムである。好きだなぁ。この女々しさ。男ってのはハードボイルドを気取りながら、こうした心情(ある種の弱さ)を持つ己に酔いしれる変わった生き物なのだ。本作は小路氏の初期の作品のようですね。氏の熱い鼓動(HEARTBEAT)を聴きながら、至福の一気読みでした。
読了日:5月29日 著者:小路幸也
そんなバカな!―遺伝子と神について (文春文庫)そんなバカな!―遺伝子と神について (文春文庫)感想
人間たるもの所詮は利己的遺伝子<セルフィッシュジーン>と利己的ミーム(両方併せて利己的自己複製子<セルフィッシュリプリケーター>)の乗り物<ヴィークル>なのであって、どうあがこうともその事実からは逃れられない。これが本書に一貫して流れる考え方である。我々が何らかの行動(それが他から賞賛されようと、軽蔑されようと、生き延びようとする行動であろうが、破滅の行動であろうが)をとろうとするとき、すべては遺伝子によってプログラムされたものなのだと。それを理解した今、私の世界を見る目は全く変わってしまった。
読了日:6月1日 著者:竹内久美子
あやしい探検隊 焚火酔虎伝 (角川文庫)あやしい探検隊 焚火酔虎伝 (角川文庫)感想
シーナ調昭和軽薄体は平成の世が長くなった今も錆び付くことなく矍鑠たり。この文章に「重厚長大」という言葉ほど無縁な言葉はなかろう。かといって「軽薄短小」かといえばさにあらず。では「軽佻浮薄」かといえば、これまた当たらない。軽妙に語られる内容は、実はシーナ氏の確固とした考えに裏付けられており、ちゃらちゃら浮ついたものではないのである。シーナ氏の一言で集まり、海に、山に、川に、島にどかどかと踏み入って焚き火を囲んで旨いものを食い酒を飲む。ここには昭和のニオイが染みついたオジサンの正しい姿がある。
読了日:6月3日 著者:椎名誠
男坂 (文春文庫)男坂 (文春文庫)感想
あぁ・・・なんてカッコイイんだ。収録された七つの短編、すべてが終わりの一文にしびれる。この余韻。これぞシミタツと思わせる。余計な説明をしない削ぎ落とされた文章。しかし志水氏が読者に伝えたいものは確実に伝わってくる。この文章は計算し尽くされ考え抜かれた職人技と云えるだろう。登場人物の魅力も独特である。人生の下り坂を迎えた男。決してヒーローではない。強くもない。それでもカッコイイのだ。彼らに共通するもの。それは寡黙であること。損得で動かないこと。己の中に規範を持っていること。それが生き方として下手であっても。
読了日:6月6日 著者:志水辰夫
アザラシのひげじまん (文春文庫)アザラシのひげじまん (文春文庫)感想
つまらん若者にはスルドイ「世の中なめんなよ。バキッ!」光線を浴びせ、神聖な大自然にはひたすら畏敬の念と穏やかな視線をそそぐ男、椎名誠。彼を取り巻くアホバカ野郎とともに昼は砂浜で野球に興じ、夜は焚き火料理で酒を飲む。今日も西に東に北に南に人と出会い、うまいものと出会い、ヘンなものと出会う。そうした椎名氏の日常は一般人にとっては非日常であって、ウヒヒと訳の分からない笑いとともについつい読み進めてしまうのである。それにしてもいつも便所がらみの話題が多いなぁ。
読了日:6月8日 著者:椎名誠
図書館危機図書館危機感想
うわぁ~、こりゃたまらん。赤面することしきり。有川氏の妄想全開にして、今更ながら氏が女子であったことを再確認。相変わらずのツンデレぶりも最高潮にして、胸きゅんきゅん。って、五十過ぎのオッサンにこんなレビュー書かせるなっちゅうねん!! 恥ずかしながらシリーズ第四弾『図書館革命』も読むぞっ! なんじゃそりゃ。(余談ではあるが「床屋」というのは不適切な言葉なのか? マスメディアってのはつくづく上から目線で心の底では他者を見下しているからなぁ。おまけに偏見を持っているのは自分たちだと気づかない鈍感さ。あぁイヤだ)
読了日:6月9日 著者:有川浩
HEARTBLUE (創元推理文庫)HEARTBLUE (創元推理文庫)感想
論語に「父は子の為めに隠し、子は父の為に隠す、直きこと其の内に在り」とある。法律上正しい振る舞いも、情に適っていなければ正しいとは言えないのではないか。たまに間違ったことをしてしまうことがあっても、人を思いやり真面目に生きている者が平穏に生きられることを大切にする。小路氏の価値観はそこにあるのではないか。厳格に法を守ったとして、それが真っ当な人間を不幸にするとすれば、そのことに何の意味があるというのか。小路氏の描く世界は人を思いやる温かさにあふれている。幸せを願って真っ当に生きている人に幸多かれと祈る。
読了日:6月12日 著者:小路幸也
出世花 (祥伝社文庫)出世花 (祥伝社文庫)感想
四つの短編すべてが切ない話だが、わけても「落合螢」がやるせなく心に残る。お縁の中に岩吉を密かに慕う気持ちが芽生え始めていたのではないか。岩吉には慕う相手として、お紋よりお縁こそが相応しかったのにと悔やまれる。しかしそれが恋というものだろう。「恋に落ちる」とはよく言ったものだ。お縁が岩吉を想う気持ちは「愛しみ」、岩吉がお紋を想う気持ちは「恋」と言うことか。
読了日:6月14日 著者:高田郁
図書館革命図書館革命感想
ついに図書館シリーズ完結編。本が検閲され、権力に不都合な発言が抹殺されるというディストピア小説として、甘々悶絶ラブコメとして存分に楽しみました。ただ本書の中ではメディアは弾圧される側として描かれていますが、現実にはメディア自身による差別的用語の自主規制が気になるところ。メディアに良識があるというのは幻想であって、それどころか浅はかで偏った考えにをまき散らし、さもそれが正しいかのように振る舞うマスメディアにこそ危険を感じるのは私だけでしょうか。だからといってマスメディアを規制せよとは言いませんけれど。
読了日:6月17日 著者:有川浩
一夢庵風流記 (集英社文庫)一夢庵風流記 (集英社文庫)感想
私の好きな重松清氏の短編『シド・ヴィシャスから遠く離れて』に「パンクは生き方じゃない、死に方だ」という一説がある。パンクを傾奇者に置き換えてもスッキリなじむ気がする。薄汚く生きるくらいなら美しく死ぬ。そうすることで人の記憶の中で美しく生き続ける。つまり死に様を考えて生きる。だから褌は己の心のように真っ白であらねばならないとする。美しい死を心の底から欲しても類い希な強さ故生き残ってしまう男の美学。それは滅びの美学。勝つ側に味方するなどと薄みっともないことはしない。辛苦(たしな)みつつ降(くだ)る男は美しい。
読了日:6月20日 著者:隆慶一郎
眠りの森 (講談社文庫)眠りの森 (講談社文庫)感想
いかにも犯人につながりそうな伏線に翻弄されてしまった。叙述トリックにも騙されっぱなしである。東野圭吾氏にもてあそばれた感じである。クヤシイぞっ! しかし私の躰はもうミスディレクションの罠にはまる快感を覚えてしまったのだ。もう昔のような自分ではないのだ。本棚にずらりと並んだ積読本の中から加賀恭一郎シリーズ第3の事件『どちらかが彼女を殺した』が「次は私を手にとって」と誘ってくる。抗いがたい魔力。あぁ、もうどうにでもしてくれっ。弄ばれる快感に墜ちてゆく~~~。
読了日:6月22日 著者:東野圭吾
どちらかが彼女を殺した (講談社文庫)どちらかが彼女を殺した (講談社文庫)感想
東京で孤独に暮らすOLに不意に訪れた恋。倖せも束の間、恋人と親友に裏切られたうえ自殺に見せかけられての死。ただ一人の肉親の兄は二人の非道を探り出し「てめえら人間じゃねぇ」とばかりに復讐に動く。復讐ものの面白さ。冴え渡る推理。偽のアリバイを崩し、容疑者の嘘を鋭敏な頭脳で見抜き真実に迫る快感。さらに最後の最後、二人のうちどちらが殺したかをあえて書かず、その真相を読者に推理させるという斬新且つ挑戦的な趣向。出だしから読者の心をつかみ、最後の最後まで息もつかせぬストーリー展開。これぞ東野マジック。いいじゃないか!
読了日:6月24日 著者:東野圭吾
かぶいて候 (集英社文庫)かぶいて候 (集英社文庫)感想
此れも隆慶一郎氏の遺作とは。『死ぬことと見つけたり』『花と火の帝』もそうであった。飛び切りおもしろい小説が不意に途中で読めなくなる悔しさは筆舌に尽くしがたい。かつて椎名誠氏が『もだえ苦しむ活字中毒者地獄の味噌蔵』に著した苦悶に匹敵するほどの苦しさに悶え苦しんでおります。おそらく隆氏は「死ぬときが来たから死んだ。それだけのこと」と仰るのだろうが、読み手にとっての喪失感は甚だしい。残された我々読み手は図らずも消えてしまった物語の余韻を味わい、隆氏が思い描いていたであろう展開に思いを馳せるしかない。
読了日:6月26日 著者:隆慶一郎
悪意 (講談社文庫)悪意 (講談社文庫)感想
「人は自分が信じたいものを信じる」と云ったのは誰だったか。言い換えれば「自分が認めたくないものは別の解釈をする」と云うことでしょう。同じことを複数人が同時に見たとしても、見え方は人それぞれに微妙に違うものです。そして実際に自分が目の当たりにしたことであっても、それを認めたくないという思いがあれば、ついには自分の都合のいいように記憶すら変わってしまうほどである。人間とはそのようにふるまう生き物などだと云うことを改めて感じた。それにしても東野圭吾氏には翻弄されっぱなしである。クヤシイが次も読もう。
読了日:7月2日 著者:東野圭吾
四畳半王国見聞録 (新潮文庫)四畳半王国見聞録 (新潮文庫)感想
「英雄は英雄を知る」と云えり。転じて「阿呆は阿呆を知る」。「知者は惑わず勇者は懼れず」と云えり。転じて「知者は惑わず阿呆は廃れず」。「踊る阿呆に見る阿呆」と云えり。転じて「書く阿呆に読む阿呆」。読む阿呆とは私のことである。同じ阿呆なら書く阿呆になりたい。しかし天は私に才を与え給わず、サイコロを振り給わず。シュレディンガーの猫の運命は箱を開けてみなけりゃわからない。何を書いているのかわからない。やはり私は阿呆です。阿呆嵩じて崇高となると云えり。ならば私はそれを矜持としよう。
読了日:7月4日 著者:森見登美彦
残月 みおつくし料理帖 (ハルキ文庫)残月 みおつくし料理帖 (ハルキ文庫)感想
「ただ寒中の麦を思へ」 冬の寒さ、雪の冷たさ、重さを受けとめたとき、そこに春を予感する。必ず来る春を信じて生き抜くということか。この言葉の持つ意味を思うとき、著者・高田郁氏の次巻に向けた腹づもりを感じる。冬来たりなば春遠からじ。次巻が上梓されるのは半年後か一年後か。高田さん、長すぎた冬にならぬようお願いします。(特別収録「秋麗の客」はさわやかな短編でした。発刊を首を長くして待っていた読者への高田さんからのプレゼントですね。ありがとうございます)
読了日:7月6日 著者:高田郁
ハルさん (創元推理文庫)ハルさん (創元推理文庫)感想
目頭が熱くなること数回。年頃の娘を持つ父親である私には胸がいっぱいになるミステリでした。人には先のことが分からない。幸せに包まれたひとときも、次の瞬間には失ってしまいかねない危ういもの。だからこそ、人はその刹那を記憶の奥底に大切にしまい込むのだろう。著者・藤野恵美氏はあとがきに「物語をつむぐことは祈りに似ています」と書いていらっしゃいます。この物語は藤野氏があらまほしと思う父娘の姿なのですね。読み終えた本を大切にそっと閉じました。
読了日:7月7日 著者:藤野恵美
有頂天家族公式読本有頂天家族公式読本感想
本日7月7日よりアニメ放映が始まるとなれば、「その前にとくと読んでおかねばなるまい」と事前の勉強に余念のない私である。私は幼少の頃からよく勉強をする子供であった。その美質は今も変わらない。「情報を制するものは世界を制す」とは今も昔も定説である。「定説」とは「疑いの無い証明済みの確定的であるとされる説」であるから、私は疑いようもなくせっせと情報取得に刻苦勉励したのである。書き下ろし短編『冬の女神と毛玉たち』も読み終えた今、「いつでも来い!」とつんのめって蹈鞴を踏むような状態である。とっとと放映したまえ!
読了日:7月7日 著者:森見登美彦,「有頂天家族」親衛隊
別冊 図書館戦争〈1〉別冊 図書館戦争〈1〉感想
あぁ、こんな暑い日によりによってこんな熱苦しい本を読んでしまった。今日(2013/07/11)、日本列島のほとんどの箇所で本年最高気温を記録したのだ。群馬県館林市ではなんと39.5℃を記録したらしい。私が住んでいるところはそこまでではなかったが、体感温度では35℃はあった。躰も顔ものぼせて真っ赤っかである。私の躰から立ち上る暑さだけで、周りの気温が5℃は上がったぞっ! しかも甘ったるくベトベトときている。それでも読んでしまう、読ませてしまうこの小説の得体の知れない魅力は何だ。このっ、このっ、読ませ上手! 
読了日:7月11日 著者:有川浩
別冊 図書館戦争〈2〉別冊 図書館戦争〈2〉感想
「もしもタイムマシンがあったら」緒方副隊長が大学時代に戻りたいと思う気持ちが切ない。不惑を二年過ぎた今も想い続ける二人。お互い嫌いじゃないのに別れてしまった選択は間違いだったのか? 二十年近く、お互い以上に心が振れる相手がいなかったから、どちらも独り身のまま。その選択を間違いでなかったと云える方法が一つだけあるように思える。きっとそうなると信じたい。また、柴崎と手塚のハッピーエンドを祝福したい。有川さんは読者がそうあって欲しいと思う結末を用意してくれる。
読了日:7月15日 著者:有川浩
冬のフロスト<上> (創元推理文庫)冬のフロスト<上> (創元推理文庫)感想
マレット署長が州警察本部のお偉方にいい顔をしたいばかりに十人もの警官を応援に送った手薄なときにかぎってクソみたいな事件が頻発。二件の少女失踪事件に加えて少年の失踪、コンビニ強盗事件、連続売春婦殺害、怪盗枕カヴァー事件ともうデントン警察署はヒッチャカメッチャカ。しかも事件のほとんどはいっこうに解決の兆しもない。膠着状態が延々と続くのだが退屈しないのはどうしたことか。上巻503Pというヴォリュームにも関わらず、全く飽きさせないおもしろさはフロスト警部の憎まれ口と減らず口とクソおもしろくもないジョークの賜か。
読了日:7月19日 著者:R・D・ウィングフィールド
冬のフロスト<下> (創元推理文庫)冬のフロスト<下> (創元推理文庫)感想
風采が上がらず、下品なジョークをとばしてはすべってばかりいるフロスト警部。憎まれ口をたたき理想の上司タイプにはほど遠いが、本当は心優しく人の情ってヤツがわかった男だ。そんな主人公の魅力もさることながら、フロスト警部シリーズをより魅力的にしているのは脇役だ。いけ好かないお追従署長マレット。ギラギラ上昇志向女性警部代行のリズ・モード。そんなモードに階級を追い越されひがむウェルズ。スケベでお人好しで役立たずの部下モーガン刑事。まさに多士済々。脇役の光る極上小説。上下巻あわせて1千ページを読んた労力に後悔なし。
読了日:7月21日 著者:R・D・ウィングフィールド
風渡る (講談社文庫)風渡る (講談社文庫)感想
今、話題の人、黒田勘兵衛とは何者ぞと興味があり本書を読んだ。うーん、なんだかなぁ。この小説の主人公黒田勘兵衛にも、準主人公ジョアン・デ・トルレスにも思い入れることなく読み終えてしまった。時は戦国時代、織田信長豊臣秀吉明智光秀大友宗麟高山右近竹中半兵衛細川ガラシャ・・・、登場人物は多士済々、信長や秀吉が覇者となっていく過程にキリシタンと南蛮文化が影響したという視点も面白い。しかし正直なところ小説世界に入り込めなかった。なんだかなぁである。
読了日:7月29日 著者:葉室麟