佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『オムライス日和』(伊吹有喜・著/ハルキ文庫)

『オムライス日和』(伊吹有喜・著/ハルキ文庫)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

有名電機メーカーに勤める菊池沙里は、大学時代にゼミで同期だった宇藤輝良と再会する。卒業して五年、宇藤は「ねこみち横丁振興会」の管理人をしながら、脚本家になる夢を追い続けているという。数日後、友人の結婚式の二次会後に、宇藤がよくいるというねこみち横丁のBAR追分に顔を出した沙里だったが…(「オムライス日和」より)。昼はバールで夜はバー―二つの顔を持つBAR追分で繰り広げられる人間ドラマが温かく胸に沁みる人気シリーズ、書き下ろしで贈る待望の第二弾。

 

オムライス日和 BAR追分 (ハルキ文庫)

オムライス日和 BAR追分 (ハルキ文庫)

 

 

 BAR追分シリーズ第二弾である。シリーズものにはできるだけ手を出さないように気をつけてきた。お気に入りのシリーズものはおもしろいTVドラマと同じで見逃せない(読み逃せない)のである。ただでさえ食指が動く小説が次から次へと出版される。読むべき金字塔的小説もごくわずかしか読めていない。そんなことだから、シリーズものはある程度そのテイストを判っているのだから後回しにしたい。本棚の積読本を早く読んでしまいたいのである。しかし、シリーズもののは続き読みたくなるようにできているのだ。出版社もキャッチコピーでその魅力を言いはやし、作者も読者に次にどうなるのだろうと思わせて、後の成り行きと結末を知りたくて仕方がないように伏線を敷くのだ。そんなふうにシリーズ第一弾『BAR追分』を読んですぐに本作『オムライス日和』を読んでしまった。ご丁寧なことに第三弾『情熱のナポリタン』も手元においてあるという仕儀に相なるのである。

 というわけで、前作『BAR追分』を読んだ後、早く続きを読みたいという禁断症状的渇きに悶えつつ本書を手に取った昨日、通退勤のバス車中、あるいは昼の弁当を食べながら、夕餉の晩酌に舌鼓を打ちながら一気に読んだ。弁当に入れた鰻の蒲焼きを食べながら、あるいは夕食に連れあいが作ってくれた豚の生姜焼きをアテに青酎を飲みながらむさぼり読んだのである。

 まず『オムライス日和』という題名に惹かれる。子供の頃、母が作ってくれたオムライス、街中の食堂で食べたオムライス、学生の頃、彼女が一生懸命作ってくれた卵がちょっと破けたオムライス、オムライスには少なからず思い出がある。いちいち人に聞かせるわけにはいかないが、私の心の奥底にある切なくも心温まる類いの思い出である。そんなオムライスに著者伊吹氏は「日和」という言葉を付けたもうた。これはもう彼の俵万智さんが「サラダ」に「記念日」を付けたに比肩する快挙と言わねばなるまい。

 猫が独居老人を救う、若き日の淡い恋、母直伝の家族の味の餃子、好意をもちながらお互いに距離をたもつ二人が飲む酒(「得月」と「風の森」)。一話ごとに話は完結するが、ある種の余韻と次の展開を予感させる。次作『情熱のナポリタン』も読まねばなるまい。

 ーー心が少し弱った日はオムライス日和・・・