佐々陽太朗の日記

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『四畳半タイムマシンブルース』(森見登美彦:著/上田誠:原案/角川書店)

『四畳半タイムマシンブルース』(森見登美彦:著/上田誠:原案/角川書店)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

 炎熱地獄と化した真夏の京都で、学生アパートに唯一のエアコンが動かなくなった。妖怪のごとき悪友・小津が昨夜リモコンを水没させたのだ。残りの夏をどうやって過ごせというのか? 「私」がひそかに想いを寄せるクールビューティ・明石さんと対策を協議しているとき、なんともモッサリした風貌の男子学生が現れた。なんと彼は25年後の未来からタイムマシンに乗ってやってきたという。そのとき「私」に天才的なひらめきが訪れた。このタイムマシンで昨日に戻って、壊れる前のリモコンを持ってくればいい! 小津たちが昨日の世界を勝手気ままに改変するのを目の当たりにした「私」は、世界消滅の危機を予感する。

四畳半神話大系』と『サマータイムマシン・ブルース』が悪魔合体? 

小説家と劇作家の熱いコラボレーションが実現!

 

四畳半タイムマシンブルース

四畳半タイムマシンブルース

 

 

  こ・・・これは! なんと歴史改変SFではないか。「もしもクレオパトラの鼻が低かったら」というやつである。あるいはレイ・ブラッドベリの名作『サウンド・オブ・サンダー』に描かれた、過去にタイムトラベルして蝶を踏みつけてしまったために、元の年代に戻ってみたらタイムトラベル前と世の中が変わってしまっていたというテーマである。ただ、「クレオパトラの鼻」が、あるいは「蝶」が「エアコンのリモコン」になっているところがいかにも四畳半的ではある。

 遡ること15年、2005年1月に上梓された森見登美彦氏の名作『四畳半神話体系』はパラレルワールドものであった。それが登場人物を同じくして歴史改変SFに書き換わっている。しかも上田誠氏の戯曲にして映画化もされた『サマータイムマシン・ブルース』のリメイクでもある。そう演劇界の奇才・上田誠氏の腐れ大学生青春SFラブコメを文壇の奇才・森見登美彦氏が腐れ大学生四畳半化したらどうなるかという戯れが本作なのです。

 本作を読む前に小説『四畳半神話体系』を読んでいれば本作を2倍楽しめます。さらにアニメ版『四畳半神話体系』を視聴していれば2×2=4倍楽しめます。さらに映画『サマータイムマシン・ブルース』を観れば2×2×2=8倍楽しめます。

 登美彦氏の腐れ大学生ものが大好物の私めにとって、この読書時間は夢のようにめくるめく快楽の時間でありました。登美彦氏が例の如く言葉をもてあそび、戯れ言の連続で腐れ大学生の生態を存分に物語ってくれる。しかしその腐れ大学生にも、否、腐れ大学生であればこそのピュアな想いがある。それだからこそ切ないのである。はたしてその切ない想いは成就するのか。それをここで語るまい。「成就した恋ほど語るに値しないものはない」 けだし名言である。

 

【追記】

世にタイムトラベル・ロマンスの名作はあまたある。中でも私が好きなものは次のようなものである。『夏への扉』(ロバート・A・ハインライン)、『ライオンハート』(恩田陸)、『たんぽぽ娘』(ロバート・F・ヤング)、『ジェニイの肖像』(ロバート・ネイサン)、『美亜に贈る真珠』(梶尾真治)、『緑のベルベットの外套を買った日』(ミルドレッド・クリンガーマン)、『時をかける少女』(筒井康隆)、『満月』(原田康子)、『長持の恋(短編集・「ホルモー六景」第6話)』(万城目学)、『君の名残を』(朝倉卓弥)、『蒲生邸事件』(宮部みゆき)、『愛の手紙』(ジャック・フィニィ)、『ふりだしに戻る TIME AND AGAIN』(ジャック・フィニィ)。本作『四畳半タイムマシンブルース』もそのひとつに加えよう。たった一日のタイムトラベルであっても、いくらふざけていようとも、男の切なさがこれほど胸にせまる小説もない。

 

 

四畳半神話大系 (角川文庫)

四畳半神話大系 (角川文庫)

 

 

 

 

 

サマータイム・マシン・ブルース

サマータイム・マシン・ブルース

  • 発売日: 2014/09/24
  • メディア: Prime Video