佐々陽太朗の日記

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『天地に燦たり』(川越宗一:著/文春文庫)

2024/02/22

『天地に燦たり』(川越宗一:著/文春文庫)を読んだ。

 まずは出版社の紹介文を引く。

戦を厭いながらも、戦でしか生きられない島津の侍大将。被差別民ながら、儒学を修めたいと願う朝鮮国の青年。自国を愛し「誠を尽くす」ことを信条に任務につく琉球の官人。秀吉の朝鮮出兵により侵略に揺れる東アジアを、日本、朝鮮、琉球の三つの視点から描く。直木賞作家のデビュー作にして松本清張賞受賞作。

 

 

 川越氏の小説を読むのはこれが二作目。前に読んだのは直木賞受賞作『熱源』であった。

 本作は川越氏のデビュー作にして松本清張賞を受賞したという。そして二作目『熱源』が直木賞を受賞したというのだからすごい。

 正直なところ直木賞受賞作『熱源』より本作のほうがより私の好みに合う。登場人物がこちらの方が魅力的だからである。

 戦に次ぐ戦、凄惨な殺戮に倦む大野七郎久高。島津家の重臣である。幼いころから学んできた儒学では天地万物はすべて「理」によって統べられる、人は生来「至善」であって、不善や悪に陥らず誠を尽くし続ければ人は「天地と参なる」と教えられたのに、現実は人は人たることを捨て、禽獣と変わらぬ行いを続けている。はたして人と禽獣を別つという仁や礼をそなえた王に仕えることは出来るのだろうかと疑問を持っている。また朝鮮に被差別民の白丁として生まれた明鐘。儒学を学び、いつか仕官して理由もなく虐げられる白丁たちを自由にするという夢を持つ。

 いつか二人は「天地と参なる」人をみることができるのだろうか。諦めずに人の誠と道を信じ続けることができるのだろうか。そうした問いかけが本作の肝なのだろう。ワクワクしながら読ませていただいた。

 ただ本作『天地に燦たり』は朝鮮の白丁と琉球、次作『熱源』はアイヌ樺太そしてロシアに隷属させられたポーランドを描いたとあって、権力者からの抑圧、あるいは差別や偏見などがテーマとなっており、どちらも些か教戒に過ぎる嫌いがある。川越氏の問題意識の現れだろうし、いずれ小説というものはそうしたエッセンスを含むものなのだろうが、やはり薬臭い。「薬臭い」とは本書の中で儒教的な教えをさして評した川越氏自身の言葉である。