佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

酒呑みの自己弁護

 井伏鱒二先生は、ぬるい風呂にはいられるそうだ。その湯を少しずつ熱くしてゆく。そうすると、さっぱりとして、宿酔がなおってしまうという。

 ある人が、先生、それからあとどうなさるんですかとたずねた。

 井伏先生は、妙なことをきくなという顔で答えられたそうだ。

「きまっているじゃないか。また飲みはじめるんですよ」

                              (本書450P「宿酔」より抜粋)

『酒呑みの自己弁護』(山口瞳/著・山藤章二/イラスト・ちくま文庫)を読みました。

裏表紙の紹介文を引きます。


世界の美酒・銘酒を友として三十余年、著者は常に酒と共にあった。なぜか。「酒をやめたら…もうひとつの健康を損ってしまうのだと思わないわけにはいかない」からである。酒場で起こった出来事、出会った人々を想い起こし、世態風俗の中に垣間見える、やむにやまれぬ人生の真実を優しく解き明かす。全113篇に、卓抜して飄逸な山藤章二さんのイラストが付く。


クラーク・ゲーブルが映画の中でベルモットの瓶を逆さにして振り、そのコルク栓でカクテル・グラスの縁を拭いてジンを注いでドライ・マルチニ(マティーニをマルチニと呼ぶのは山口氏のこだわり)をつくったという話。チャーチルベルモットの瓶を横目で睨みながらジンのストレートを飲んだという話。山本周五郎氏がけっしてスコッチを口にせずサントリー・ホワイトを飲み続けていた話。大山康晴王将が始めたゴルフをすぐ止めたときに「あれは体によすぎるので……」といったという話。小粋な話が随所にちりばめられたエッセイです。

山口氏は言います。

「酒をやめたら、もしかしたら健康になるかもしれない。長生きするかもしれない。しかし、それは、もう一つの健康を損なってしまうのだと思わないわけにはいかない」と。

氏はこうも言います。

「酒を水で割って飲むほど貧乏しちゃいねえや」と。