佐々陽太朗の日記

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『永遠の0』(百田尚樹/著・講談社文庫)

2011/04/15

『永遠の0』(百田尚樹/著・講談社文庫)

 

「一つだけ聞かせてください」とぼくは言った。「祖父は、祖母を愛していると言っていましたか」
 伊藤は遠くを見るような目をした。
「愛している、とは言いませんでした。我々の世代は愛などという言葉を使うことはありません。それは宮部も同様です。彼は、妻のために死にたくない、と言ったのです」
 ぼくは頷いた。
 伊藤は続けて言った。
「それは私たちの世代では、愛しているという言葉と同じでしょう」

                              (本書120Pより)

 

 

 『永遠の0』(百田尚樹/著・講談社文庫)を読みました。

 裏表紙の紹介文を引きます。


 「娘に会うまでは死ねない、妻との約束を守るために」。そう言い続けた男は、なぜ自ら零戦に乗り命を落としたのか。終戦から60年目の夏、健太郎は死んだ祖父の生涯を調べていた。天才だが臆病者。想像と違う人物像に戸惑いつつも、1つの謎が浮かんでくるーー。記憶の断片が揃う時、明らかになる真実とは。

 

永遠の0 (講談社文庫)

永遠の0 (講談社文庫)

  • 作者:百田 尚樹
  • 発売日: 2009/07/15
  • メディア: 文庫
 

 



 昭和九年に海軍に志願して入隊し、戦闘機乗りになり、昭和十六年の真珠湾攻撃に参加、その後は南方の島々を転戦し、終戦の数日前に神風特別攻撃隊員として戦死した男の物語です。
 読んでいて何度も嗚咽がこみ上げてきました。
 ここに書かれているのは素晴らしい男たちの物語です。零戦で空中戦に臨むヒーローの物語。零式戦闘機に乗る我が国のパイロットだけがヒーローなのではない。零戦と翼を交え命のやりとりをする敵戦闘機乗りもまたヒーローである。お互いの勇気とガッツに敬意を表する男たち、真の勇者のみが真の勇者を知るということであろう。
 しかし、本書はけっして戦争や特攻隊を賛美するものではありません。己が命の危険を顧みず、勇敢に戦うことを是とする戦場にあって、主人公の祖父(宮部久蔵)はむしろ命を惜しむ臆病者であります。必要とあらば敢然と敵に立ち向かい、卓越した技術で敵機を打ち落とす最高の戦闘機乗りでありながら、つねに命の危険に細心の注意を払い、けっして無謀なことをせず、誰よりも生きて帰ることに執着した宮部。宮部にとって、神風特別攻撃などという戦法が是認できたはずはない。しかし彼は終戦の数日前に神風特別攻撃で戦死している。そこになにがあったのか。太平洋戦争がどのような戦争であったのか、真に守るべきもの、大切なものとはなにか、勇気とはなにか、誇りとはなにか、当時の男たちがどのような気持ちで戦争に臨んだのか、特攻隊員はどのように特攻を受け入れたのか、戦争に対する世論の変化、ジャーナリズムの豹変ぶりはどうだったのか、戦後日本はどう変わってしまったのか・・・・・、そうしたあらゆるものがこの小説の中にちりばめられて、読者に問いかけてきます。
 私は思いました。特攻隊で命を落とした主人公の祖父、宮部久蔵は命の尊さを知っていただけに、命より大切なものがなにかを知っていたのだと。命より大切なものはなにか。それはそれぞれの心の中にあります。