佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

爆ぜるゲームメイカー

「間一髪だったな」

 僕の邪魔をした男が言った。

「放してくれ。頼むから僕の好きなようにさせてくれよ」

 僕は心の底から懇願した。声は震え、涙が勝手に溢れ出してくる。

「残念だな、坊主。俺は日本一のおせっかいなんだよ」

 醜い大型犬のような顔をした男だった。太すぎる眉に、潰れた鼻。顎は必要以上に角張り、肌の色は浅黒い。

 父親が追いつき、男からひったくるようにして、僕をアスファルトに引きずり落とした。

「お前は今、何をしようとした」 父親は真っ赤な目で、僕を見た。

「新しい人生を歩むのに、必要な行為だったんですよ」 男が、僕を殴ろうとする父親を止めた。

 男の名は、来栖。パン職人だった。

                                  (本書P12-P13より)

 

『爆ぜるゲームメイカー』(木下半太・著/講談社文庫)を読みました。

 

まずは出版社の紹介文を引きます。


“嫌われ者に愛の手を”―週刊誌記者・小谷野丈二のもとに届いた謎のメモは、壮絶な復讐劇の始まりだった。別れた妻子を救うため、三人の“嫌われ者”と共に「死のPK戦」に挑む丈二。死闘の果てに、復讐に燃える男・オオシマの“本当の狙い”がわかった時、戦慄の結末が待ち受ける。


 

 

 

木下半太氏の小説は数えて9冊目。好んで読ませていただいてます。特段の感動があるわけではありません。まして読んだ後、深い余韻が残るわけでもありません。感動とは別の動機を持って木下氏の小説を読むのです。たとえて言えば、それは遊園地のジェットコースターです。ジェットコースターってのはとにかくはらはらドキドキする乗り物です。そのスリルを味わうためにのみあるものです。はっきり言って、そんなものなくても誰も困らない。乗る必要など何もない。でも、目の前にそれがあれば乗らずにいられない。そう、木下氏が紡ぐ物語はまるでジェットコースターのような物語なのです。