「俺はさっき泥棒のプロフエッショナルだと言ったよな」
「確かに」
「でもな、人生については誰もがアマチュアなんだよ。そうだろ?」
佐々岡はその言葉に目を見開いた。
「誰だって初参加なんだ。人生にプロフェッショナルがいるわけがない。まあ、時には自分が人生のプロであるかのような知った顔をした奴もいるがね、とにかく実際には全員がアマチュアで、新人だ」
(本書P277より)
『ラッシュライフ』(伊坂幸太郎・著/新潮文庫)を読みました。
まずは出版社の紹介文を引きます。
泥棒を生業とする男は新たなカモを物色する。父に自殺された青年は神に憧れる。女性カウンセラーは不倫相手との再婚を企む。職を失い家族に見捨てられた男は野良犬を拾う。幕間には歩くバラバラ死体登場―。並走する四つの物語、交錯する十以上の人生、その果てに待つ意外な未来。不思議な人物、機知に富む会話、先の読めない展開。巧緻な騙し絵のごとき現代の寓話の幕が、今あがる。
全くの赤の他人の人生が意外なところで交錯し意外な結果に収斂するという伊坂氏お得意の展開である。
著者の他の作品を読んだときにも感じたことだが、井坂氏は作品を通じて氏の倫理観を随所に開陳してくれる。本書においてはなんといっても空き巣泥棒の黒澤にそれを見ることが出来る。変ないい方ではあるけれど、この泥棒は素晴らしく倫理的である。(笑) なにせ空き巣に入った後に必ず盗品リストを作成し、被害者の煩わしさを軽減して差し上げるのだから。
この泥棒黒澤は『重力ピエロ』にも登場するらしいので、そちらも読まねばなるまい。