佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『殺したい蕎麦屋』(椎名誠・著/新潮社)

『殺したい蕎麦屋』(椎名誠・著/新潮社)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。ついでに本の帯に記された惹句も引いておきましょう。

蹴飛ばしたい店。抱きしめたい犬。人生の時を振りかえる発作的感情旅行。何故、かくも憎むのか?何故、かくも愛するのか?後ろ足で蹴りたいエラソーな店。噂話と悪口が好きな奴。世界の奇食珍食。懐かしの飼犬たち。辺境旅。クルマで近場旅。焚き火。格闘技。寝る前に読む本……。シーナを作りあげてきたモノをめぐる怒りと笑い、好奇心と追憶が縦横無尽に炸裂する極私的感情文集。

 

【本の帯・惹句】

しゃらくさい店をケトばし、

犬を抱きしめ、旅を思い、

ビールを呑んで月に吠えるのだ、今宵も。

 

怒濤と叙情、熱風と回想の感情的エッセイ集。

 

東にケシカラヌ店あれば

行って後ろ足で蹴り、

西に寄食珍食怪食あれば

行って一口食べてやり、

南に飛び跳ねる格闘家あれば

行って手に汗握り、

北にオモシロ本の山があれば

わしわしと読破し、

日照りの時は生ビールを呑み、

寒さの夏も生ビールを呑み、

みんなに焚火好きと呼ばれ、

褒められもせず、

苦にもされず、

そういうものに、

もうとっくになっている

ような気がする。

 

殺したい蕎麦屋 (新潮文庫)

殺したい蕎麦屋 (新潮文庫)

 

 

 椎名氏が2007年から2010年ごろにかけて、「yom yom」ほかに書いたエッセイを収録したもの。表題となった「殺したい蕎麦屋」は青山のある有名な蕎麦屋のこと。店内にビバルディが流れており、一番安い「せいろ蕎麦」が1,260円という店である。いちいち手書きされてメニューにはかなり「相田みつを」が入っているという。わかります。私だってそこまで読んだだけで軽く殺意を抱きます。おまけに出てきた「せいろ蕎麦」は盛ってあるというより20本ほどの蕎麦が散らばっているという。そりゃあ殺したくもなるわなぁ。私だってそんな店に入ってしまったら「蕎麦ごときを気取って食えるか、こらぁっ!」と一万円札をテーブルにたたきつけて椅子をケトばして店を出てやろうと思いますよ、きっと。思うだけで、きっちり釣り銭をもらいますけれど。

 嬉しいのは椎名氏が作家として駆け出しの頃の回想が書かれていること。初めて書いた本『クレジットとキャッシュレス社会』のことやいきなりベストセラーになりスーパーエッセイと称された『さらば国分寺書店のオババ』のことが書かれている。私が初めて椎名氏のエッセイに出会ったのは『かつをぶしの時代なのだ』であった。椎名氏の4冊目のエッセイでしょうか。ソフトカバーの本でした。1981年の春、神戸さんちかの書店でたまたま手に取って立ち読みしてその面白さにはまってしまったのだ。バイトに行かなければならないので、全部を立ち読みするわけにいかず、さりとて、すぐにも続きが読みたいのでやむなくレジで代金を支払った。読む本は安い古本で間に合わせていた私にとって痛い出費であったことを覚えている。

 思えばそれ以来、椎名氏の生き方をお手本に、ほんの少しだけマネして生きてきたように思う。やはり私は椎名氏のエッセイが好きだ。軽薄に見えようと粗製濫造のそしりを受けようと、イイものはイイ。

 

 

かつをぶしの時代なのだ―スーパーエッセイ (1981年)

かつをぶしの時代なのだ―スーパーエッセイ (1981年)