佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『新章 神様のカルテ』(夏川草介・著/小学館)

『新章 神様のカルテ』(夏川草介・著/小学館)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

320万部のベストセラー、大学病院編始動

 信州にある「24時間365日対応」の本庄病院に勤務していた内科医の栗原一止は、より良い医師となるため信濃大学医学部に入局する。消化器内科医として勤務する傍ら、大学院生としての研究も進めなければならない日々も、早二年が過ぎた。矛盾だらけの大学病院という組織にもそれなりに順応しているつもりであったが、29歳の膵癌患者の治療方法をめぐり、局内の実権を掌握している准教授と激しく衝突してしまう。
 舞台は、地域医療支援病院から大学病院へ。
 シリーズ320万部のベストセラー4年ぶりの最新作にして、10周年を飾る最高傑作!内科医・栗原一止を待ち受ける新たな試練!


「新章神様のカルテ」に寄せて
神様のカルテ」を書き始めて、いつのまにか十年が過ぎた。私の歩んできた道を追いかけるように、栗原一止の物語も五冊目を数え、本作をもって舞台は大学病院へと移る。栗原は、私にいくらか似たところはあるが、私よりはるかに真面目で、忍耐強く、少しだけ優秀で、間違いなく勇敢である。そんな彼が、大学という巨大な組織の中で描きだす、ささやかな「希望」を、多くの人に届けたいと思う。
                夏川草介 深夜2時半の医局にて

新章 神様のカルテ

新章 神様のカルテ

 

「汝は汝の道を行け、人々には言うに任せよ」
 信念と矜持のある人間にこれほど心強い言葉もあるまい。しかし市井にあってそれが難しいのだ。今の世の中、小者の言うことは捨ておけと切って捨てることはできない。なにせ自由と平等は金科玉条のごとく世に信奉されており、小者の言うことはかまびすしいこと甚だしい。
 一個のパンの話について考えさせられた。一個のパンを分け与える大学病院の悩ましき実情は分かる。しかし医療に携わる者は分け与える側に立つのではなく患者に寄り添うべしと言うのが栗原一止の結論。つまりは作者の出した結論なのだろう。
 作中の一止の言葉「やまない雨はない。明けない夜はない」「生きることは権利ではない。義務です」は至言であろう。
 終盤、一止が7歳の少女理沙ちゃんと約束を交わす場面「どんなに大変なことがあっても、ママの前ではできる限り笑顔でいなさい」で私の涙腺は決壊した。
 作中登場人物が飲む酒がすばらしい。ここにリストアップしておく。おおかたは私も飲んでいるが★印は未だ飲んでいないもの。いずれ飲んでみなければなるまい。
 
 双葉佐希子先生のツンデレぶりがこの物語にさりげなくうるおいを与えてくれている。彼女が研究室で作業をしながら読んでいる本に興味をそそられた。『完全な真空』(スタニスワフ・レム)、『ソラリス』(スタニスワフ・レム)、『闇の左手』( アーシュラ・K・ル・グィン)、『時間封鎖』(ロバート・チャールズ ウィルスン)。これらSFの名作は読まねばなるまい。なんとも魅力的な先生ではないか。双葉先生がフラスコで淹れた珈琲をビーカーで飲んでみたいものだ。