佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『あの本は読まれているか』(ラーラ・プレスコット:著/ 吉澤康子:訳/東京創元社)

『あの本は読まれているか』(ラーラ・プレスコット:著/ 吉澤康子:訳/東京創元社)を読みました。

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この本にはウォッカがお似合いだが、あいにく切らしている。

ジンをやりながら読むことにする。

まぁ、スパイものでもあるのでジンっていうのもあながちハズレてはいないだろう。

 

 まずは出版社の紹介文を引きます。

一冊の小説が世界を変える。
それを、証明しなければ。
冷戦下、CIAの女性たちがある小説を武器に超大国ソ連と戦う!
本国で出版契約金200万ドル(約2億円)のデビュー作
2020年海外ミステリ最高の話題作!!

 

冷戦下のアメリカ。ロシア移民の娘であるイリーナは、CIAにタイピストとして雇われるが、実はスパイの才能を見こまれており、訓練を受けてある特殊作戦に抜擢される。その作戦の目的は、反体制的だと見なされ、共産圏で禁書となっているボリス・パステルナークの小説『ドクトル・ジバゴ』をソ連国民の手に渡し、言論統制や検閲で迫害をおこなっているソ連の現状を知らしめることだった。──そう、文学の力で人々の意識を、そして世界を変えるのだ。一冊の小説を武器とし、危険な極秘任務に挑む女性たちを描く話題沸騰の傑作エンターテインメント!

 

あの本は読まれているか

あの本は読まれているか

 

 

 

 面白い。パステルナークによって書かれ、後にノーベル文学賞に輝いた『ドクトル・ジヴァゴ』がロシア革命を否定するものとして、その完成前からソ連共産党からいかにマークされ、出版を妨げられたか、そしてそのことがパステルナークの周辺の人、とりわけ恋人のオリガにどのような影響を与えたかが東側の動きとしてオリガの視点で描かれる。そしてもう一つの視点として西側の動きとして『ドクトル・ジヴァゴ』がイタリアを皮切りに世界各地で翻訳出版され、さらにはアメリカCIAが作戦としてソ連国内で発禁状態のそれをソ連に供給し、言論統制や抑圧がまかり通っているソ連の現状をソ連国民に認識させ体制批判の精神を植え付けようとするプロパガンダを実行していく様が描かれている。CIAが反ソ精神の醸成を狙って『ドクトル・ジヴァゴ』をソ連国内に普及させようとしたことは小説上のフィクションではなく、実際に関与を裏付ける資料が最近になって公開されたそうである。

 本書が著者の処女作にもかかわらず、全世界的な話題になっているのは、ノーベル文学賞を受賞した『ドクトル・ジヴァゴ』を取り巻く数奇な物語であることだけがその理由ではない。本書が女性作家(それもラーラという名の)によって書かれたということへの関心と、本書が西側においてはCIAに勤める女性タイピストの眼を通して語られ、東側においてはパステルナークの恋人オリガの眼を通して語られているからである。この時代、表舞台に立つのは男、女は日陰の存在である。特に仕事においては女性はいかに有能で高度な教育を受けていようと雑用的な仕事をさせられるならいで、この小説においてもCIAに勤める女性はタイピストであって、あくまでも男性局員の補助的な仕事である。そんな女性たちが日陰の存在であってなお、実は世の中の出来事に対して大きな影響力を持っているのだという事実が読み手の腑にズンと落ちるのだ

 本書を読むためにわざわざ『ドクトル・ジヴァゴ』を読んだ。次は映画を観るか。

 

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ドクトル・ジバゴ - ララのテーマ / Doctor Zhivago 1965