佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『明日をこえて』(ロバート・A・ハインライン:著/扶桑社ミステリー文庫)

2023/04/18

『明日をこえて』(ロバート・A・ハインライン:著/扶桑社ミステリー文庫)を読んだ。

 まずは出版社の紹介文を引く。

アメリカ合衆国は占領された!世界侵略をつづけてきたパンアジア帝国によって、政府中枢は壊滅、全土が一気に制圧されたのだ。だが、ロッキー山脈の奥に、精鋭の科学者たちが集う軍の秘密基地があった。いまやここが唯一の希望となったのだ―が、予想外の実験事故で壊滅に近い状態に陥っていた。そして、それこそが、逆襲の切り札となる大発見だった!ひと握りの軍人と科学者は、苦闘しながら反撃計画を作りあげていくが…巨匠ハインラインが遺した問題作、邦訳。

 

 

 

 久しぶりにハインラインを読んだ。ハインラインは好きで、すべてでは無いがそこそこ読んでいる。『メトセラの子ら』『宇宙の孤児』『宇宙の戦士』『夏への扉』『銀河市民』『失われた遺産』『人形つかい』『太陽系帝国の危機』などだ。この本は書店に行ったときたまたま目にしたもの。本の帯にある言葉「巨匠ハインラインが遺した最後の問題作 ついに邦訳!」を見て、これは読まねばと勢い込んで買ったのだ。

 しかし本書を読み終えた今、私はやや消沈している。買ったときにはあれほど高揚していたのに。こう言うと失礼だが、つまらなかった。

 アメリカが”パンアジア帝国”に軍事征服されてしまうという設定の物語で、アメリカ軍の秘密研究所の生き残りが開発した画期的な科学兵器を武器にゲリラ戦で奇跡的に挽回するという筋書きである。全体にアジア系への侮蔑と恐怖が匂う。多分に当時の黄禍論の影響が感じられる。作中に「猿ども」とか「黄色いヒヒ」といった差別的な表現も散見される。おそらく今まで邦訳されなかったのは、そうしたことに原因があるのではないかと推察する。

 本書がアメリカで上梓されたのは1949年のこと。太平洋戦争の終結(1945年)の4年後であり、その年のはじめには中国人民解放軍が北京を略取し、南京を制圧したという時代背景がある。アメリカ海軍に在籍したことのあるハインラインがこうした小説を書いても不思議ではない。私は別にハインラインを差別主義者などと非難する気はない。そういう時代だったのだし、当時のアメリカの気分を反映した小説なのだろう。

 本書とまったく関係はないが、最近、立憲民主党小西裕之参議院議員が、衆議院憲法審査会の毎週開催は「サルがやること」と述べたことが波紋を呼んでいる。人を「サル」に例えるのはこの日本においても侮蔑的な行為だ。アジアに対し差別的だった当時のアメリカが作った日本国憲法をいまだに金科玉条と崇め奉り、一言一句変更してはならぬと改憲の議論すら否定する。日本国民から選挙を経て選ばれた衆議院議員による議論の積み重ねを「サルがやること」と侮蔑する日本の国会議員。何かおかしくないか?