佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『夜長姫と耳男』(坂口安吾:著/夜汽車:絵/立東社)

2024/01/16

『夜長姫と耳男』(坂口安吾:著/夜汽車:絵/立東社)を読んだ。

 まずは出版社の紹介文を引く。

人気シリーズ「乙女の本棚」第12弾は坂口安吾×イラストレーター・夜汽車のコラボレーション!
小説としても画集としても楽しめる、魅惑の1冊。全イラスト描き下ろし。

好きなものは呪うか殺すか争うかしなければならないのよ。
師匠の推薦で、夜長姫のために仏像を彫ることになった耳男。故郷を離れ姫の住む村へ向かった彼を待っていたのは、残酷で妖しい日々だった。

ノスタルジーを感じさせる美しい作品で大きな話題を呼んでいるイラストレーター・夜汽車が坂口安吾を描く、珠玉のコラボレーション・シリーズです。
自分の本棚に飾っておきたい。大切なあの人にプレゼントしたい。そんな気持ちになる「乙女の本棚」シリーズの1冊。

 

 

 怖ろしいほどの美しさ、無垢の残虐性、愛情と狂気の相似。いやはやすごい小説でした。ただただ怖ろしい。しかしその怖ろしさから目がそらせない。そんな思いで読んだ。

 美を突き詰め、それをかたちに表そうと精進する若者の前に怖ろしいほどの美しさを持つ少女が現れた。少女は人でありながら人の持つ余計なものを持たない。そこには体温すら感じられないほどの完全な美があった。若者はその美しさに打ちのめされ、抗いがたい美に抗い、かたちに表す術として呪う。そうすることでしか夜長姫の持つ美しさを像に結ぶことが出来なかったのだろう。

 単に工芸にとどまらず芸術を求めた才能の悲劇と歓喜。それがこの小説が描きたかったものなのかなと、それが私の拙い頭で考えた精一杯のことです。

好きなものは呪うか殺すか争うかしなければならないのよ。

 夜長姫が発したこの言葉に打ちのめされる。

 

 読み終えた後に一つ悲しいこと。最後の頁に出版社からのこんな言葉が書いてありました。

※本書には、現在の観点から見ると差別用語と取られかねない表現が含まれていますが、原文の歴史性を考慮してそのままとしました。

 こんな言葉を読まねばならないとは、ひたすら悲しい。言葉を狩れば人の心の中にある差別性がなくなるとでも言うのか。その言葉でないと表せないものがある。文学とは、芸術とはそのようなものだろう。そこにあるものを見えなくして、人々に目隠しをして、その先になにがあるというのか。ポリコネだか、多様性尊重だか、社会的弱者に寄り添うだかしらないが、私にはおためごかしとしか思えない。