佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

「橋ものがたり」(藤沢周平著:新潮文庫)

 やらなくてはならないことがたくさんある休日だ。そのうちにと思いながら先延ばししてきた結果だ。おまけに明日は自由にならない。今日は本棚に目をやってはいけない。「ブー危険です!」「ブー危険です!」「ブー危険です!」 頭の中でアラームが鳴っている。「本を手にとってはいけません!」「その本を置きなさい!」 頭の中で繰り返される警報を無視して、私の手は勝手に本に伸びる。もうだめだ。
 手に取ったのは「橋ものがたり」だ。私の大好きな職人人情もの、市井人情もの短編集である。氏の本はついつい手にとってしまう。中でも、藤沢氏のご長女が「『橋ものがたり』が一番好きです」と仰るとおりこの本に収められている短編はしみじみと藤沢らしく秀逸だ。
 用事を済まさねばならないので一篇だけと思い「約束」を読み始める。五年後にこの橋の袂で逢おうと約束を交わした男女の話だ。やっぱり良いなあと思い、ものがたりの余韻をかみしめながら次の一篇「小ぬか雨」へ。これで止めよう、もう止めようと思いながら最後の話「川霧」まで読んでしまった。こうなるのは本棚に氏の本を見てしまった時から判っていたのである。いけないことと知りながら逢瀬を重ねてしまう男女の気持ちと同じなのである。(ちょっと大げさか)
 いつものことだが、氏の本を読んだ後は心が温まり、人を信じようという気になる。世の中捨てたもんじゃない。

橋ものがたり (新潮文庫)

橋ものがたり (新潮文庫)

  • 作者:藤沢 周平
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1983/04
  • メディア: 文庫