佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

年末のオススメ本****『さくら』(西加奈子:著/小学館文庫)を読む

 西加奈子さんの小説『さくら』を読みました。以前から良いというウワサを耳にしていましたので、それなりの期待を持って読ませていただいたのですが、良かったです。期待を裏切らないどころか、期待を大きく上回っていました。読み終えて一夜過ぎた今も胸が熱く、何とも言えぬ温かさに心が満たされています。

 背表紙の紹介文を引きます。


スーパースターのような存在だった兄は、ある事故に巻き込まれ、自殺した。誰もが振り向く超美形の妹は、兄の死後、内に籠もった。母も過食と飲酒に溺れた。僕も実家を離れ東京の大学に入った。あとは、見つけてきたときに尻尾に桜の花びらをつけていたことから「サクラ」となづけられた年老いた犬が一匹だけ――。そんな一家の灯火が消えてしまいそうな、ある年の暮れのこと。僕は、何かに衝き動かされるように、年末年始を一緒に過ごしたいとせがむ恋人を置き去りにして、実家に帰った。「年末、家に帰ります。おとうさん」。僕の手には、スーパーのチラシの裏の余白に微弱な筆圧で書かれた家出した父からの手紙が握られていた――。


 2005年3月に単行本が刊行されて以来、もう33万部が売れているらしい。むべなるかな。『さくら』は西加奈子さんの2作目の小説だそうだ。文章に多少違和感がないではない。しかし、そんなことは些細なことと思える。この小説には、そんなことはどうでも良いことだと言えるだけのパワーがある。多くの人々の胸を打つ感動がある。多くの人々に受け入れられる共感がある。「お涙ちょうだい」だの「陳腐」だの「文章が下手」だの、そうした批評などどうでも良い。この小説にはストレートな『感動』がある。インテリを気どった小賢しい小説など笑止! 小説は感じるためにあるのであって、アクセサリーではないのだから。

この小説は哀しい話でもあります。しかし、そうであっても、この本の主題はこれです。そこに救いがあります。
Your love\'s put me at the top of the world
あなたの愛が私を世界の頂上に舞い上がらせた
 

 

 この小説にはお気に入りの言葉が沢山あるのだが、そのなかから一つだけ引いておきます。主人公のお父さんの同級生サキコさん(おかまで本名はサキフミさんという)が主人公とお兄ちゃんに語りかけた言葉。

いつか、いつか、お父さんとお母さんに、嘘をつくときがくる。
お父さんとお母さんは、あんたらのこと愛しているからね。
嘘をつくときは、あんたらも、愛のある嘘をつきなさい。
騙してやろうとか、そんな嘘やなしに、
自分も苦しい、愛のある、嘘をつきなさいね。

 

年の瀬も押し詰まったこの時期に読めばさらに感動が増す、年末オススメ本です。