佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

ホルモー六景

 そのとき、ようやく気がついた。自分が彼女に恋をしていたということを。

 赤信号がやけに滲んで見えた。鼻の奥がなぜかツンと痛い。慌てて空を仰ぐと、いつの間にかまん丸な月がぽっかりと浮かんでいた。しんと浮かぶ白い光に、こういうときの月はいけない、いけないぞと心が鳴っていた。

 信号は青に変わり、北山通に入った。

 月は宝ヶ池の空を、どこまでもついてきた。

                              (本書P108より)

 

 

 『ホルモー六景』(万城目学/著・角川文庫)を読みました。昨年の秋に買っておきながら、なぜか積読本になっていた。しまった。すぐに読んでいれば良かった。『鴨川ホルモー』を読んで、その記憶が確かなうちに、そのサイド・ストーリーである本書『ホルモー六景』を読むと、味わいが何倍も深くなったのにと後悔しきりである。

 

 裏表紙の紹介文を引きます。「二条河原の落書」をもじったこの紹介文はなかなかのものです。


このごろ都にはやるもの。恋文、凡ちゃん、二人静。四神見える学舎の、威信を賭けます若人ら、負けて雄叫びなるものかと、今日も京にて狂になり、励むは御存知、是れ「ホルモー」。負けたら御存知、其れ「ホルモー」。このごろ都にはやるもの。元カレ、合コン、古長持。祇園祭宵山に、浴衣で駆けます若人ら、オニと戯れ空騒ぎ、友と戯れ阿呆踊り。四神見える王城の他に、今宵も干戈の響きあり。挑むは御存知、是れ「ホルモー」。負けたら御存知、其れ「ホルモー」。古今東西入り乱れ、神出鬼没の法螺試合、若者たちは恋歌い、魑魅魍魎は天翔る。京都の街に咲き誇る、百花繚乱恋模様。都大路に鳴り渡る、伝説復古の大号令。変幻自在の第二幕、その名も堂々『ホルモー六景』、ここに推参。


 

 成就した恋、はかなく散った恋、学生の街・京都には今日も様々な恋の花が咲き、散っているのだろう。花咲くことなく、蕾で終わった恋もあろう。この本を読みながら、久しぶりに大学に入学した頃の空気を思い出した。青春という言葉を安っぽく使いたくはないが、素晴らしきかな青春といいたくなる珠玉の6篇だった。

 第六景「長持ちの恋」では鴨川ホルモーで謎であったチョンマゲ高村のチョンマゲの理由が明かされた。素敵な話です。京都大学青竜会・高村と立命館白虎隊・細川珠実。二人の幸せを心から祈りたい。