佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『政治学者、ユーチューバーになる』(岩田温:著/WAC BUNKO)

2022/11/27

政治学者、ユーチューバーになる』(岩田温:著/WAC BUNKO)を読んだ。

 まずは出版社の紹介文を引く。

ネトウヨ」と罵られても私は挫けない!
ネット全盛で「天下の朝日と池上彰」の権威は消滅
学校の「いじめ」はYouTube教育で解消できる

さぁ、保守派の狼煙をあげよう!衝撃のノンフィクション(書下し)
私は、幼稚園児の頃にはリニアの運転手になりたいと思っていた。しかし、大人になると、アカデミズムの世界では嫌われる「保守系」の大学教員になってしまった。そしてYouTubeを馬鹿にしていた私が、いつのまにか教員を辞めて、なんとYouTube(岩田温チャンネル)を開局してしまった! それは何故か?

YouTube全体主義と闘うための道具だと知ったからだ。そこで、私は大学教員を辞めて「独立型知識人」を目指して「YouTuber」になったのだ。
象牙の塔の中で、現実をいっさい知らない政治学者が政治を語るバカバカしさを変えよう。

序 章 「独立型知識人」を目指して「ユーチューバー」になってみた!
第一章 「夫唱婦随」「二人三脚」「二足の草鞋」でYouTube開始
第二章 YouTubeのリスクマネジメントを考えてみた
第三章 「テレサヨ」に「ネトウヨ」と罵られても私は挫けない
第四章 ネット全盛で終焉を迎える「朝日新聞」と「池上彰」の時代
第五章 学校の「いじめ」はYouTube教育で解消できる
おわりに──保守派の狼のろし 煙をあげよう!

 

 

 

 最近、TVを視ることが少なくなった。視るのはスポーツの中継と旅番組、あるいは料理番組といったところ。ニュース番組はBSの硬派なものを視るのみだ。何故か? あまりに偏向が酷いからである。それでも以前はTVと新聞だけが情報源だったので辛抱しながら視ていたのだが、「それは違うだろう!」と怒り狂うことがしばしばであった。とりわけワイドショーは最低最悪だと思っている。無責任でいい加減な情報を垂れ流し、印象操作はやり放題、解説者の起用は偏っているわ、門外漢にいい加減なことをしゃべらせているわ散々だ。「TVを視るとバカになる」と誰かが言っていたが、ほんとうにそのとおりだと思う。その点YouTubeなら右から左までさまざまな言論人の意見が聴ける。もちろんゴミのようなコンテンツもある。またアルゴリズムでその人が好きそうな関連動画が表示されることによる偏向にも注意が必要だ。しかし偏向報道はTVや新聞のお家芸でもある。むしろTVや新聞の偏向をYouTubeで埋め合わせてちょうど好い加減だともいえる。

 そんなこんなで最近はYouTubeにハマっている。中でもお気に入りのコンテンツは『岩田温チャンネル』である。岩田氏は筋金入りの保守だ。ユーモアのセンスもあり、立⚫民⚫や共⚫の馬鹿げた主張を茶化すあたりおもわず笑ってしまう。よく言ってくれたと溜飲が下がる思いもする。そう、TVや新聞からの情報取得機会を減らし、その分YouTubeを視るようになってストレスが激減したのだ。

 本書では岩田温氏が何故、どのような思いでユーチューバーになったのかが明かされている。とりわけかつて岩田氏が身を置いた大学を中心としたアカデミズムからみてネガティブなイメージがつきまとい軽視されがちなユーチューバーになるに至った経緯は興味深い。かく言う私もYouTubeにハマるまでは「ユーチューバーなんて・・」と軽侮の念を持っていたことは否めない。しかし毎日YouTubeにアクセスするようになり、さらに本書を読むに至ってこうした動画共有プラットフォームの持つポテンシャルとその可能性について認識を新たにした。YouTubeはある種の意図を持ったプロパガンダや新聞TVなどマスメディアの偏向報道にどっぷり浸かってしまい、知らず知らずのうちに思考をコントロールされてしまう危険を、それとは反対側の言論に触れることができる事によって薄めてくれる。実際に新聞を購読することを習慣とし、TVニュースやワイドショーで世の情報を入手する高齢者とTVをあまり視ず新聞も読まず常にWebサイトにアクセスしている若者とでは政治的事象に対する見方にはっきりとした違いが見える。たとえば最近国論を二分した安倍元総理の国葬儀問題を例にあげると、10代~20代は6割くらいが国葬儀に賛成しているが、70代になると賛成は3割弱しかおらず反対は60%以上との調査結果がある。TV新聞世代の70代はそこに流れる情報はだいたい正しいだろうと思っている。しかし10代~20代はフェイクも右も左も含め、あらゆる情報を見比べ判断するリテラシーを持っていると解釈してもけっして的外れではないだろう。

 読みどころは第三章(「テレサヨ」に「ネトウヨ」と罵られても私は挫けない)、第四章(ネット全盛で終焉を迎える「朝日新聞」と「池上彰」の時代)、第五章(学校の「いじめ」はYouTube教育で解消できる)だ。岩田氏の思いが熱く語られる。

 まず第三章では戦後民主主義のゆがみのなかで、保守あるいは右派がスティグマによって不当に扱われがちなことを憂え、けっして公平中立でなく左に傾いているオールドメディアの流す情報を思考停止しつつ受け容れることによって「テレサヨ(テレビ左翼)」が生み出される構図にメスを入れる。次に第四章で、公正中立を標榜する朝日新聞池上彰氏が如何に左傾した政治的意図を潜ませ、巧みに読者、視聴者を扇動しているかを暴く。なかんずく一見して中立穏当な言論人に見える池上彰氏が狡猾に利用する手法「編集の詐術」についての論考は鋭い。恥ずかしながら私は「編集の詐術」という言葉を知らなかった。かの山本七平氏がシェークスピアの史劇『ジュリアス・シーザー』の中で、シーザーの腹心であったアントニーの用いた演説手法をそう呼んだのだという。この遣り口には気をつけねばならない。そういえば私は山本夏彦氏は少し読んだが、山本七平氏を読んでいない。読んでみようと決めた。そして思いのほか読み応えがあるのが第五章である。YouTubeの教育利用によって「いじめ」「不登校」などの問題解決に繋がる可能性。さらには高い質の授業がYouTubeによって広く誰もが受けられるようになることに言説する。対面する授業に意味がないなどとは言わない。しかし教師を選ぶことが出来ず、質の低い授業をも受けざるを得ない悩み、そして今の学校では理解の進まない子への配慮からハイレベルの授業を受ける機会を奪われてしまっている子の悩みにとって、YouTubeによる教育コンテンツは福音であるに違いない。もっとも日教組は大反対するだろうが。それにつられて文科省も及び腰だろう。日教組文科省は子どものことを真摯に考えてはいない。あるのは教師側視線の理屈と欺瞞だけだ。

 岩田温氏の論考を知るには何も本を読まずとも『岩田温チャンネル』を視聴していれば充分かもしれない。しかし些少ながら本を買って読むことにも意味はある。勇気を持ってアカデミズムの世界からユーチューバーに転身した氏を応援することになる。私はそうして差し上げたい。

 さて次は岩田温氏と有馬純氏の対談が記された『エコファシズム 脱炭素・脱原発・再エネ推進という病』を読もう。