佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

ウェルズの欧州紀行(ロンドンに持っていった2冊の本)

 ロンドンの街を歩くとなれば、スパイ小説が大好きな私の心はウキウキする。そう、ロンドンにはSIS(Secret Intelligence Service イギリス情報局秘密情報部)の本部がある。MI6(Military Intelligence <section> 6 - 軍情報部第6課)としてのほうが知られているかもしれない。ファンが多いのはなんと言ってもイアン・フレミングが描いた007ジェームズ・ボンドであろう。映画でお馴染みだ。フォーサイスの小説も人気がある。しかし、私の好みはなんと言ってもブライアン・フリーマントルが書いたスパイもの「チャーリー・マフィン・シリーズ」である。今回の渡航にもシリーズ第1作「消されかけた男」、第2作「再び消されかけた男」を持参しました。

 

 
 

 再々読ではありますが、今回の旅はオーストリア→ドイツ→イギリスという経路できているので、まさにこの2冊がぴったり来るのです。第1作「消されかけた男」では秘密工作の舞台がチェコスロバキアオーストリアの国境だし、第2作「再び消されかけた男」では、ロンドンに舞台を移しているからです。

 

 たとえば「再び消されかけた男」198Pを読むと


 マーブル・アーチ地下鉄駅の外で急停止したのは、故意の行動で、あとにつづく車の列から抗議の警笛がひびいたが、その最初の一つが鳴らされぬうちに、チャーリーとウィロビーはもう階段を駈けおりていた。すぐにはいってきた電車に乗れたのは、これは意外な幸運というべきだった。腰をおろすと、チャーリーは時計に目をやった。予定より二分先んじているのがわかった。
「あと十分もすれば、ラッシュアワーのはじまりが見られますよ」
 彼はそう告げたが、ウィロビーは黙ってうなずくばかりだった。そして唇を真一文字に結び、まっすぐ前方をみつめていた。やはりおびえているな、とチャーリーは思った。
 オクスフォード・サーカス駅で、ドアが閉まろうとするときに、二人は電車をとびおり、左手のエスカレーターをのぼって足早にあるいた。かれらが地上にでると、車がすっと縁石に寄ってきた。それから一方通行をすばやく左折し、ふたたびリージェント・ストリートにはいった。


 ロンドン最初の食事はピカデリー・サーカス付近のレストランで同行者全員ととったのですが、食事後、ほとんど者がボンド・ストリートの一流ブランド店(ヴィトン、ベルサーチ、テイファニー、シャネル、ロレックスなど)をゆっくりと覗きながら歩いていた。しかし私はひとり通りをさっさと歩きオクスフォード・ストリートへ出てマーブル・アーチへと歩きハイド・パークで一休みしたのであった。途中、ヴィトンの店でキース・リチャーズの巨大な看板を発見し写真を撮ったが、あとは一流ブランド店を覗くこともなくそそくさと立ち去った。おそらく同行者には変なヤツと思われたことでしょう。しかし、チャーリーが街を駆けめぐる様子を思い浮かべながら一人悦に入ったのでした。まあ、池波正太郎ファンが九段坂を歩きながら鬼平犯科帳の一節「九段坂を下りきって,濠端をちょいと右へ入ったところに葭簀張りの居酒屋・・・・」なんてのを思い浮かべてニンマリしているというのと同じです。こうした街歩きの楽しみは本好きならではです。チャーリーの活躍を思い浮かべながら街を歩き、ホテルに戻ってからもう一度、本を手に取る。もうたまりません。