平成31年3月26日(火)
以前より一度泊まってみたいと思っていた信州高山村は山田温泉の「藤井荘」に泊まる。
長野から奥山に分け入ると、山々には未だ雪が残り、ひときわ静けさを際立たせ、何百何千年と変わらぬ幽寂閑雅の趣をたたえる。戦国武将の福島正則が発見し、江戸時代中ごろに開湯したという名湯は今なおこんこんと湧出する。そんな山里にひっそりと佇む温泉地にある藤井荘はかつて文人墨客も愛した宿である。
宿に着くとまずラウンジに案内された。
ラウンジの席に腰を落ち着けると菓子と茶が供される。添えられた花と文の中に二十四節気七十二候について書かれたように、季節はまさに春「桜始開(さくらはじめてひらく)頃であるが、山深いこのあたりのこと、眼前の渓谷には残雪がある。まずは、雪の多い真冬の風景を想像してみる。木々をつつむ真っ白な雪が眩く美しいに違いない。あるいは木々の葉が赤色黄色に染まる秋も絶景だろう。しかし何といってもこのラウンジからの眺めで一番は新緑のころではないだろうか。今は想像するしかないが、「藤井荘」のHPにその頃の写真があるのでリンクを張っておく。
https://www.fujiiso.co.jp/facility/
部屋は建物の奥まったところにある離れのようなところ「横笛」という部屋に泊めていただいた。そこに至るアプローチのそこここにそっと花などが生けてあり心が和む。部屋の前にはオーディオ室があり、ゆるやかなジャズが流れていた。出来ることなら2泊3泊するなかでこの部屋でゆっくりと読書などしたい気分だ。
夕食までの時間を利用して、藤井荘の真向かいにある「滝の湯共同浴場」に入ることにした。この風呂は基本的に地元の方専用だが、宿泊客に鍵を貸してくれるので入ることが出来た。木造の風情ある建物。外は雪が残るほど寒いが窓を少しずつ開けていてちょうど良い室温である。湧き出るお湯が66℃だとか。水道の蛇口をひねって冷水で温度調節するようだが、地元の方はかなり熱いお湯に入られるらしい。一緒に居合わせた地元の方はこうして(バタフライのように)湯を混ぜて入りなさい。そして無理して長く入らずに、湯から上がって躰を冷まし、また入るという形で何度も入ると良いと教えてくださった。なるほど我慢して長く入るとゆだってしまうに違いない。それほど熱い湯であった。
風呂から上がって藤井荘に戻る。ラウンジにご自由にお飲み下さいと利き酒が用意してある。ありがたくいただくことにした。
風呂上がりのほてった躰にキリッと冷えた酒が心地よく流れ込むと陶然とした心もちになる。ゆっくりくつろいでいるといつの間にか夕食の時間になった。
土瓶蒸しの中に細長く白いものが入っているが、これは「山伏茸」というキノコだそうです。食感がよく、クセがないため汁の旨味を存分に吸ってなかなかおいしい。
大岩魚は臭みなく、信州サーモンは脂が乗り、白エビはもっちり。酒はワインをチョイスしたので、醤油の香りがワインの風味を損なわないよう岩塩を用意してくれた。細かい心遣いです。
ワインは「FUKUIHARA blanc 2017」をチョイス。高山村に2017年に開設されたワイナリー「ドメーヌ長谷」の初リリースとなるワインです。ブドウは多品種混植栽培。除草剤、化学農薬、化学肥料を使用せず、野生酵母によるワインづくりを実践しているのだとか。リリースされたのはわずか1043本。そのうちの1本をいただいたわけです。シャルドネ、リースリング、ソーヴィニヨン・ブラン、シュナン・ブラン、ゲヴュルツトラミネールとシラーの6品種の混醸です。グレープフルーツを彷彿とさせる穏やかできれいな酸が好ましい。自然でやさしい口当たりでした。キャップが蝋づけになっているところもプレミアム感があります。
さていよいよ楽しみにしていた名物料理「ぽんぽん鍋」。高山村で採れたみずみずしい野菜や山菜をオイルで素揚げするこの料理は素朴なだけに滋味にあふれ、まさに信州そのものをいただく料理。
酒は小布施の高沢酒造「豊賀 純米吟醸」。そしてもう一種、佐久市は伴野酒造「Beau Michael (ボー・ミッシェル)」。どちらも雅な味わいの銘酒です。
細く美しい信州蕎麦。上に「すんき漬け」とカイワレがあしらってあります。「すんき漬け」は赤カブの葉茎を湯通し、無塩で漬け込んで乳酸発酵させた木曽の漬物。
信州プレミアム牛のすき煮にはワラビが添えてありました。当然まだ寒い信州のものではないのでしょうが、春を感じる一品です。
〆御飯は山菜と信州サーモンの釜炊き。たまりませんなぁ。
食事の後はラウンジでゆっくりさせていただいた。ライトアップされた野性の梨の木に舞い散る雪が美しい。贅沢なひとときです。