佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『朝が来るまでそばにいる』(彩瀬まる:著/新潮社)

2023/01/31

『朝が来るまでそばにいる』(彩瀬まる:著/新潮社)を読んだ。

 まずは出版社の紹介文を引く。

弱ったとき、逃げたいとき、見たくないものが見えてくる。高校の廊下にうずくまる、かつての少女だったものの影。疲れた女の部屋でせっせと料理を作る黒い鳥。母が亡くなってから毎夜現れる白い手……。何気ない暮らしの中に不意に現れる、この世の外から来たものたち。傷ついた人間を甘く優しくゆさぶり、心の闇を広げていく――新鋭が描く、幻想から再生へと続く連作短編集。

 

 

 嫌なものを読んでしまった。本書に収められた最初の短編「君の心臓をいだくまで」読み始めたときに感じた偽らざる感想である。なにかおぞましい手に身体が絡め捕られているような感覚。そこから逃げたいのにそのおぞましいものの正体が何かを見きわめたくてじっとしている。そしてさらに絡め捕られてしまう。そんな感覚である。さらにその感じは次の「ゆびのいと」でも変わらない。だのに読むのを止められない。おぞましさから眼をそむけられない。やがて気味の悪い手に捕まって、どこか訳のわからないところに連れ込まれてしまう。そんな感覚の短編集だった。

 それなのに収められた六編を最後まで読ませてしまう。これは彩瀬まる氏の筆力の成せる技なのか。はたまた彼女の描く世界がとんでもなく異次元のものなのか。その答えを見つけたい気はする。彩瀬氏の作品をもう一つ読んでみようか。いややはりやめておいた方が良いか。迷ってしまう。とりあえずしばらくはじっとしている。そう決めた。