佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

この世でいちばん大事な「カネ」の話

 誰だって勝つ気で行くんだよ。勝つ気で行くんだけど、負けることのほうがずうっと多いのがギャンブルなの。
 人生だってそう。勝つことより、負けることのほうがずっと多いし、負けてあたりまえ。私にとってのギャンブルは、そういうときの「しのぎ方」を、型破りの大人たちから学んだところだった。
                                      (本書P139-140より)

 

 

 

 

 『この世でいちばん大事な「カネ」の話』(西原理恵子・著/理論社)を読みました。西原氏が貧しかった幼い頃の生活、事業に行き詰まった末に自殺した父、学校に通いながら自分のイラストを出版社に持ち込んだ学生生活、出版業界での成功、ギャンブルなど、過去、自分の生きてきた局面を「カネ」の視点から読み解き、自分が到達した考えを語る自伝的エッセイです。最近、CSで西原氏の原作になる『毎日かあさん』を視ることがあります。西原氏の世界に興味を惹かれていました。そのうえ知人のみるくさんがこの本を興味深く読まれたらしいということと、じねんさんに教えていただいた尾道大学の学生さんのWebページに光原百合氏が愛読書として紹介していらっしゃるのを読み、これはすぐに読まなくてはと思った次第。

 

http://www.lets-find-the-key.com/extra/ggp_201109/desk.html

 

 お金の大事さ、お金のできること、お金がないということがどういう事か、そうしたことを知った上で、いちばん大事なのは「カネ」を持つことではなく「カネ」をなくすことへの覚悟なのだと言っているのではないかと思いました。「カネ」の意味、「カネ」の力、「カネ」の怖さを考え尽くしたからこそ「カネ」の無い状態に陥ったときの覚悟ができる。そしてその覚悟のむこうに見えてきた境地が「働きなさい。働いてお金を稼ぎなさい。そうして強くなりなさい。それが、大人になるっていうことなんだ」(本書P228)ということ。
 巻末に谷川俊太郎氏からの「何がいちばん大切ですか?」という質問に西原理恵子氏が次のように答えている。
   「かぞくとしごと」。
「カネ」ではない。

 余談ながら、今、内田樹氏の著書『街場の現代思想』(文春文庫)を読んでいるのですが、その中で内田氏は次のように仰っている。
 「お金は大切だ」
  でも、同時に「どうでもいいものだ」。
 内田氏のお金についての考察も興味深いので、ここにその論旨を書き留めておきたい。曰く、


お金があればこそ、人間は「自分はいったい、どんな『余分なもの』を作り出せるのだろう?」というふうに考えることになる。お金は私たちが「何かを作り出す」きっかけをつくる最初の「一撃」だ。そして私が何ものであるかは、私が作り出したものの意味と価値(マルクスはそれを「労働」と呼んだ)によって決まる。私たちは労働を介して自分が何ものであるかを知ることができるようになった。労働以前において私は「何ものでもない」。だから「人間が貨幣を作り出した」というのは不正確な言い方である。貨幣以前に「人間」は存在しなかったのだから。


 西原理恵子氏の大切なもの「しごと」と内田樹氏のいう「労働」、全く同じものではないが、そこに共通点を見いだすのはあながち間違いではあるまい。


目次
第一章 どん底で息をし、どん底で眠っていた。「カネ」がないって、つまりはそういうことだった。
第二章 自分で「カネ」を稼ぐということは、自由を手に入れるということだった。
第三章 ギャンブル、為替、そして借金。「カネ」を失うことで見えてくるもの。
第四章 自分探しの迷路は、「カネ」という視点を持てば、ぶっちぎれる。
第五章 外に出て行くこと。「カネ」の向こう側へ行こうとすること。