佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

映画『ウンベルト・D』(1952年イタリア/ヴィットリオ・デ・シーカ監督)

2021/07/11

ウンベルト・D』(1952年イタリア/ヴィットリオ・デ・シーカ監督)を観た。犬好きが観るべき映画としてSさんが教えて下さったもの。映画が制作された頃、私は未だ生まれもしていない。ヴィットリオ・デ・シーカ監督という名前、どこかで聞いたと思えば『ひまわり』の監督ではないか。そして1952年イタリアといえばヨーロッパ講和条約が締結されてから5年が経った時期。反ファジズム、ネオリアリズモの潮流か。なるほど、映画が素人くさいのは古い時代のせいだけではない。むしろそのようにリアリティを求めた結果なのか。

 このところ「犬」が重要な役割を演ずる小説をたくさん読んだ。そんな中に、孤独で死を覚悟した飼い主に寄り添う犬の話がいくつかあった。犬という生きものは人の孤独を癒やしてくれる。

 激しいインフレの中、少ない年金では部屋代も払えず生きていくすべもない年老いた主人公に世間は決して優しくない。古くからの知り合いも気づかぬふりを決め込む。冷たいといえばそうだが、皆、自分の家族を守るだけで精一杯なのだろう。教養もあり、現役のときにはそれなりの仕事をしたという矜持を持つ主人公は、知人に対して助けて欲しいという言葉をどうしても発することが出来ない。街頭で物乞いをしようかとも思ったが、どうしても出来ず、愛犬のフレイクにちんちんさせ、その首にシルクハットをかけてみたりもするがそれも見るに忍びない。せめてフレイクだけでも助けようと飼ってくれそうな人に有り金全部とともに預けようともしたが、それもかわいそうで出来なかった。本当に死のうとしたがフレイクのおかげでなんとか思いとどまる。

 映画はもう死ぬしかないところまで追いつめられた主人公に何の解決策も与えはしない。思いがけない幸運も、奇蹟も起こりはしない。それこそが現実(リアリズム)というものだろう。それでも犬が側にいる。それこそが救いだ。

 街角でフレイクが首にシルクハットをぶら下げてちんちんする姿におもわず涙がこぼれそうになった。

 

ウンベルトD DVD HDマスター

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