佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『鬼平先生流 粋な酒飯術』(佐藤隆介:著/小学館文庫)

2024/05/27

鬼平先生流 粋な酒飯術』(佐藤隆介:著/小学館文庫)を読んだ。

 まずは出版社の紹介文を引く。

波正太郎の書生を10年務めた著者による食と旅をめぐる痛快エッセイ。“生来口福”を自らの生き方の基本に置き、老書生は「飲み食い」に命をかける。移ろいゆく日々のなかで描かれる生活は、まさに粋で生唾もの。その折々に、希代の食道楽であった亡師・池波正太郎の言葉と思い出が甦ってくる…。食と旅をめぐる思索を哲学にまで高めようと葛藤して生まれた作品集。これぞ本物の味わい。

 

 

 知人から薦められ読んだ本。私、”粋な酒飯術”というものには格別の興味があります。また鬼平先生(池波正太郎)流の酒飯術にもひとかたならぬ興味があり、『食卓の情景』『男の作法』『夜明けのブランデー』など池波氏のご著書を読ませていただいた。だから本書は私にとってドストライクな内容ということになる。ただ私は佐藤隆介氏を知らず、本のタイトルから受ける印象は失礼な言い方ながら”池波正太郎の褌で相撲を取る”といったもので、おそらく図書館や本屋で本書をみかけたとしても手に取ることはなかったと思う。知人から、それも信頼の置ける知人から良い本だと教えていただいたからこそ本書を読むことになった。よくぞ薦めてくださったと思う。というのも、本書の内容が素晴らしく良かったからである。

 何が素晴らしかったのか。やはり諸処に池波正太郎イズムが書き表されているところである。ただしそれは単なる受け売りや模倣ではない。それはもう完全に佐藤氏のものになっており、私から見ればじゅうぶん池波氏の域に達している、否、既に池波流を我が物とし佐藤流にまで昇華されていると見える。

 本書をきっかけに辰巳芳子氏にも興味を持った。佐藤氏によると料理研究家は世に数多いるが、辰巳芳子は次元が違うという。なんでも「”食”という命題を切り口としつつ、宇宙、自然、人間の本質を追究し続けている哲学者」なのだとか。とりあえず本書で紹介された『手しおにかけた私の料理』と『食に生きて』を読んでみようと思っている。

 佐藤隆介氏の他のご著書も読んでみたい。図書館所蔵のものを検索し、次の6冊を借りたい本にリストアップした。

 本書を読んで膝を打った至言。

 「別荘を持つより、定宿を持て」
 「食育とは”まともな朝飯を毎日子どもに食べさせること”につきる」

 本書を読んで行きたいと思った店

『玄斎』は本書に登場した店ではない。しかし大阪料理界の重鎮・上野修三氏との交流が本書に記されていた。『玄斎』のご主人・上野直哉氏はたしか上野修三氏のご子息のはず。『玄斎』には数回行ったことがあるのだが、いつも大満足で店を後にする。何度でも行きたい店だ。 

本書を読んで是非作ってみたいと思った料理。「鴨脂と千住葱の吸物」「ゆで卵のピクルス」「蜆の焼酎漬け」「初鰹の燻豚(ベーコン)炒り」「玉露のおにぎり」「念海さん」「茄子の塩もみ」「茄子の胡麻油風味焼き(辛子醤油)」「葉唐辛子の当座煮」「白根繊切りの辣油和え」「滑子の酒しゃぶ」「エリンギ飯」「寒夜粕鍋」「虎魚の酒ラッパ(ちりめん山椒の佐藤流)」「茄子の焼味噌」

 本書を読んで観たいと思った映画 『刑事ジョン・ブック――目撃者』

 本書を読んで肝に銘じたいと思った言葉。

  

 

 巻末に佐藤氏の定宿が十軒紹介されている。佐藤氏がそのあたりではここが一番と思っていらっしゃる宿だ。十軒の内、三軒(伊豆修善寺[あさば]、廿日市[石亭]、山代[あらや滔々庵])には泊まったことがある。またもう一軒、唐津[洋々閣]のご主人とも知己を得ている。私も少しは佐藤流の粋に近づきつつあるかも知れぬが、まだまだである。本書を読んで、読みたい本、観たい映画、作ってみたい料理・・・やりたいことがまたまた増えた。人生はあまりに短い。まぁ、焦っても仕方がない。「遊びをせんとや生れけむ 戯れせんとや生れけん」 いつまで生きることができるか甚だ心許ないが、神さまがこんな阿呆を生かしてくれている内は、せいぜい楽しいことをさせていただきましょう。