佐々陽太朗の日記

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『いのち愛づる生命誌(バイオヒストリー) 38億年から学ぶ新しい知の探求』(中村桂子:著/藤原書店)

2024/05/22

『いのち愛づる生命誌(バイオヒストリー) 38億年から学ぶ新しい知の探求』(中村桂子:著/藤原書店)を読んだ。

 中村桂子氏のご本を読むのは初めてだ。そもそも私は中村桂子氏のことをなにも知らなかった。半月ほど前、YouTubeを視ていて、たまたま中村氏が対談なさっている動画を拝見して知ったのである。ライフワークとして生命科学を探求してこられた氏が語られた次の言葉が妙に私の心に刺さったのである。

「アリとライオンを並べて、どちらが上かと比べても無意味じゃないですか。ひとつのモノサシだけではかる社会を作ったなら、すごく生きにくい社会になる」

「今、生命学に”下等生物”、”高等生物”という言葉はありません。全ての生物は共通に40億年という時間を持っている。新自由主義者やそれに近い考えの人たちは人間がいちばん上にいると思っている。SDGsやら生物多様性なんてこと言い始めているが、いちばん上にいる者の目線でものを言っている」

 新自由主義が大っ嫌いだと言い切られた中村氏のお考えに触れたくてすぐに図書館で本書を借りた。

 出版社の紹介文を引く。

“生命知"の探究者の全貌! “人間中心"ではなく、“いのち"を中心にした社会へ。
◎DNA研究が進展した1970年代、細胞、DNAという共通の切り口で、「人間」を含む生命を総合的に問う「生命科学」の出発にかかわった中村桂子
◎次第に“科学と日常との断絶"に悩んだが、DNAの総体「ゲノム」を手がかりに、歴史の中ですべての生きものを捉える新しい知「生命誌」を創出。
◎「科学」をやさしく語り、アートとして美しく表現する思想は、どのように生まれたか?

 

 

DNA研究は続けたいけれど、生きものを「機械」として見たくはない――そう思っていた時に、DNAを「ゲノム」としてとらえる考え方が登場しました。
生きもの全体を知りたいからと言って、ただ全体を眺めていても、何も見えてはきません。ゲノムは全体でありながら、すべてを解析できるのです。とにかくDNAの端から端までを解析してその全体を考えたら、生きているとはどういうことかを知る方法になるに違いありません。これまでの科学では決してできなかったことです。解析を基本におきながら全体が見えるという、こんな魅力的な切り口を見せる物質は他にはありません。
ゲノムを出発点にしよう。生きものは生成するものであるというあたりまえのところに戻って、ゲノムに書きこまれた歴史を読み解こうというところまでは、すぐに思いつきました。
(本文より)

 本書は朝日新聞東京新聞、その他に連載されたエッセイなどを加筆修正のうえ編纂されたもののようである。朝日新聞東京新聞もろくでもない記事を垂れ流すメディアだが、ひとつやふたつは良いところがあるものだ。

 読んでいて「へぇー、そうなんだ」と思ったこと、「なるほどなぁ」と思ったこと、「あぁ、それは大切だ。そう考えないといけないな」と思ったことが本書の中にいっぱいちりばめられていて、刺激的な時間を過ごさせていただいた。

 本書に書かれた興味深い言葉を抜き書きして備忘録としたい。

  • 最近歴史書を読むのが嫌になっています。歴史のほとんどが戦争の記録であり、しかも勝者の目で書かれていると思えるからです。・・・・・歴史の主人公は常に勝者であり、人の上に立つ人たちです。・・・・生きもので言うなら、人間中心になります。私が知りたいのは、バクテリアもキノコもミミズもチョウもタンポポも、それぞれがみごとに生きていることであり、みんなでつくる歴史物語です。 (なるほどなぁ)
  • 地球上に暮らす多種多様な生きものがすべて祖先を一にしており、ヒト(人間)ももちろん例外ではない・・・・ (へぇー、そうなんだ)
  • 自然との一体感は、日本人ならだれもがもっている感覚ではないでしょうか。・・・・白和えを思いだしてください。豆腐とすりゴマで和えた菜やキノコなどは、それぞれの素材の味が生きながら一体となっています。一方アメリカはじめ欧米の文化から生まれたサラダは、確かに一つの容器の中のトマトやレタスがドレッシングで味付けされていますが、トマトはトマト、レタスはレタスです。・・・・よい素材は取り入れて全体のなかにとりこみ、それぞれを生かしながらも新しい形していくのが日本の文化の歴史でした。そこから生まれるのは「寛容」の精神です。今の社会で最も必要とされているのが「寛容」ですが、それを具体化したのが「和」なのです。 (あぁ、それは大切だ)
  • キンギョやニワトリは五種類の視物質をすべてもっているのに、人間は紫・青系のものは一つ、つまり四つ(色は三つ)しかもっていないことが明らかになった。キンギョたちは、とてもきれいな世界を見ているのだろうなあと羨ましい。 (へぇー、そうなんだ)
  • ベラの仲間にメスがオスに転換するものがある。水槽にメスばかり入れておくと、一ヵ月ほどでそのなかで一番大きな個体がオスに変わるのだ。 (へぇー、そうなんだ)
  • 免疫の研究が進んだ結果、常にあらゆる異物に対する免疫細胞がつくられており、その大部分ははたらく場もなく消えていく・・・・・なんとムダな・・・・だからこそ、この異物だらけの厳しい世間を生きていけるのだと思い直し、ムダの意味を改めて感じた。 (あぁ、それは大切だ) 
  • 人間の最大の特徴は言葉をもつことであり、どこで生まれようと、言葉をきちんと身につけなければならない。日本の場合なら、基本の言葉はやはり日本語だろう。・・・・論理的に考える言葉をもっていれば、高校でDNAなど習っていなくても、大学入学後に本気で勉強すれば、生物学の知識はすぐに身につくはずだと思う。まず読み書きをしっかり身につける教育をしないと、とんでもないことになりそうだ。 (あぁ、それは大切だ)
  • 生物学は生きものには多様性こそ重要であること、現存の人間はすべて祖先を共有する一つの種であることなどを明らかにした。私たちのゲノム(DNA)にはうまくはたらかない部分が必ずあり、障害があってはならないとするとだれも存在できなくなることもわかった。これらはすべて差別は無意味であることを示している。 (なるほどなぁ)
  • 『世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ』という絵本を読み、それが二〇一二年ブラジルのリオデジャネイロで行われた「国連持続可能な開発会議」での無比歌詞のスピーチであることを知って、その考え方、生き方に共感を抱いていた。・・・・「私は世間から貧しいと言われているが、決して貧しくない。質素を好むのだ」と語った。そして貧しいとは、無限にモノを欲しがることであると説明した。そういえば、自由主義経済の祖といわれるアダム・スミスも同じことを言っている。幸せに暮らすには最低水準の収入は必要だが、それを超えてどこまでも収入を求め続けるのは弱い人であり、賢い人は見極めをつけるというのである。 (あぁ、それは大切だ)