2021/10/05
『豹の呼ぶ声 CALLED BY A PANTHER』(マイクル・Z・リューイン:著/石田善彦:訳/ハヤカワ文庫)を読んだ。
まずは出版社の紹介文を引く。
なぜ、警察に追われている過激派グループがわたしに依頼を? 環境保護を訴えるこのグループは、爆発しないようにセットした爆弾を公共の場に仕掛けてマスコミの注目を集めていた。が、その爆弾が何者かに盗まれたので死傷者が出る前に回収してほしいという。仕方なく調査を引き受けたわたしは、爆弾を盗んだ犯人の行方を追う一方、密かに過激派グループの正体も探るが……心優しき探偵サムスンが男の意地を見せる注目作
私立探偵アルバート・サムスン・シリーズ第7弾である。
物語はいきなり富裕な未亡人邸のパーティーで発生した殺人事件ではじまる。おいおい、アガサ・クリスティーか? と思ったら、とんだ茶番劇であった。パーティーの座興にいやいやながら探偵役の寸劇を仕事として引き受けたのだ。もちろん金のためである。あとで自己嫌悪に苛まれることを承知のうえで。心優しい知性派探偵アルバート・サムスンは相変わらず金に困っている。母親からは「だれもが成功しなければならないということはないんだよ、アルバート」と慰められる始末だ。
ガールフレンドのしがらみでテレビに私立探偵アルバート・サムスンのCMを流してしまった。これもやりたくなかったことだ。
情況に流されてたとえ気の進まないことでもしなくてはならないことはある。それでもどうしてもやりたくないことはある。損得ではない。それだけは絶対にしないという己に対する規範だ。それが本書のテーマである。はてさてアルバート・サムスンがどうしてもやりたくないこととはどんなことか。それをここで書くわけにはいかない。結末の分かったミステリなど、気の抜けたビールのようなものだから。